大分高専と組んで「芽かきロボット」を開発する菊農家
一輪仕立ての輪菊の生産で、最も人手を要するのが「芽かき」と呼ばれる脇芽を摘む作業だ。
全作業の23%を占める芽かきを、ロボットに担わせられないか。こう考えた大分県豊後大野市のお花屋さんぶんご清川は、脇芽を認識し除去するロボットを大分工業高等専門学校(以下、大分高専)などと協力して開発する。
日差しの降り注ぐ広いハウスに入ると、技能実習生の女性たちが、目線ほどの高さまで成長した菊の脇芽を黙々と摘み取っていた。品種によっては、脇芽を30個ほど取らなければならない。
「9月から芽かきの作業が増える。人件費がかかるね」
同社代表取締役の小久保恭一さんはこう話す。
菊の包装や箱詰めをする作業所を訪れると、技能実習生がいくつもの花を咲かせるスプレー菊のラッピングをしていた。もともと、手がかかる一方で付加価値の高い輪菊しか生産しなかったけれども、人手不足に対応するため、芽かきの必要がないスプレー菊を徐々に増やしてきた。今は面積で2割ほどがスプレー菊である。
同社がある中山間地域は、過疎高齢化が進んでいる。農園を作った2004年から、パートの顔ぶれは変わらず、その平均年齢は75歳になってしまった。高齢を理由にやめる人も出ている。
従業員や研修生計13人を擁するものの、足りない部分を補おうと、技能実習生数人の雇用を続けてきた。それでも間に合わず、一部をスプレー菊に切り替えたのだ。
安定的な人材確保が厳しさを増す中、輪菊の生産をどう続けるか。小久保さんが出した答えがロボット化だった。「芽かきロボットを作ろうと、プラットフォームを立ち上げた」のだ。
圃場で使える移動式のロボットの開発を目指す。機械学習の手法を使って、脇芽を認識できるようにし、3次元での位置の把握まで可能にする。加えて、脇芽の除去ができるようなロボットハンドを開発する。
お花屋さんぶんご清川の圃場を実証の場にし、大分高専が中心になって、システム開発会社や農業資材の販売会社などと連携している。
作業の省力化により、労働力の減少にも耐える菊栽培の実現を狙う。人手が減っても、栽培技術を高い水準で維持できるのではないか、施設園芸のほかの品目にも適用できるかもしれないと期待している。
「ちゃんと動いてくれるなら、2000万円出しても買いたいと思っている。ロボットは24時間働いてくれるわけだから、人件費を考えると安い」
1980年代から1990年代にかけて、電照菊で隆盛を極めた。その実、菊に仏花としてのイメージを定着させ、消費を伸ばしたのは、かつて田原市の菊農家だった小久保さんその人だ。その後、お花屋さん(愛知県田原市)という、JA外の菊の生産者団体としては最大のグループを構築し、2004年に大分県に移った。
今でも田原市は最大の産地だ。しかし、小久保さんによると、菊農家はかつての半分まで減っているという。
福岡県八女市も輪菊の大産地だが、同様にほぼ半減だそうだ。全国の輪菊の出荷量を見ても、2002年産で11億5500万本だったのが、2020年産は7億4700万本まで減っている(農林水産省の作況調査より)。消費の減少や輸入ものの増加、重油代の値上がりの影響が大きいとみられる。一方で、農家数も栽培面積も増えているのが大分県で、これを牽引するのが小久保さんだ。
お花屋さんグループの菊は品質が高く評価されていて、顧客がついている。そこで、お花屋さんぶんご清川で働く少なくない若者に、大分県内で独立して農場を持たせる「のれん分け」を続けているのだ。2020年だけで3人が豊後大野市内で独立を予定している。
コロナ禍に伴う葬儀の自粛や規模縮小で、一時的に菊の需要が減った時期もあった。しかし、お花屋さんグループに関しては、仏花の需要は戻っているという。
今後も安定供給を続けるための一手として、ロボットの開発に期待がかかっている。
有限会社お花屋さんぶんご清川
https://ohanayasanbungokiyokawa7.webnode.jp/
全作業の23%を占める芽かきを、ロボットに担わせられないか。こう考えた大分県豊後大野市のお花屋さんぶんご清川は、脇芽を認識し除去するロボットを大分工業高等専門学校(以下、大分高専)などと協力して開発する。
人手不足でスプレー菊増加
お花屋さんぶんご清川は、6ha強の敷地に3.5haの9棟の連棟ハウスが並ぶ。菊の出荷は、年間350万本にもなる。日差しの降り注ぐ広いハウスに入ると、技能実習生の女性たちが、目線ほどの高さまで成長した菊の脇芽を黙々と摘み取っていた。品種によっては、脇芽を30個ほど取らなければならない。
「9月から芽かきの作業が増える。人件費がかかるね」
同社代表取締役の小久保恭一さんはこう話す。
菊の包装や箱詰めをする作業所を訪れると、技能実習生がいくつもの花を咲かせるスプレー菊のラッピングをしていた。もともと、手がかかる一方で付加価値の高い輪菊しか生産しなかったけれども、人手不足に対応するため、芽かきの必要がないスプレー菊を徐々に増やしてきた。今は面積で2割ほどがスプレー菊である。
同社がある中山間地域は、過疎高齢化が進んでいる。農園を作った2004年から、パートの顔ぶれは変わらず、その平均年齢は75歳になってしまった。高齢を理由にやめる人も出ている。
従業員や研修生計13人を擁するものの、足りない部分を補おうと、技能実習生数人の雇用を続けてきた。それでも間に合わず、一部をスプレー菊に切り替えたのだ。
AIで脇芽を認識しロボットハンドで除去
欠かせない労働力になっていた技能実習生は、各国の情勢によって入国のタイミングが1年以上も遅れることがある。安定的な人材確保が厳しさを増す中、輪菊の生産をどう続けるか。小久保さんが出した答えがロボット化だった。「芽かきロボットを作ろうと、プラットフォームを立ち上げた」のだ。
圃場で使える移動式のロボットの開発を目指す。機械学習の手法を使って、脇芽を認識できるようにし、3次元での位置の把握まで可能にする。加えて、脇芽の除去ができるようなロボットハンドを開発する。
お花屋さんぶんご清川の圃場を実証の場にし、大分高専が中心になって、システム開発会社や農業資材の販売会社などと連携している。
作業の省力化により、労働力の減少にも耐える菊栽培の実現を狙う。人手が減っても、栽培技術を高い水準で維持できるのではないか、施設園芸のほかの品目にも適用できるかもしれないと期待している。
「ちゃんと動いてくれるなら、2000万円出しても買いたいと思っている。ロボットは24時間働いてくれるわけだから、人件費を考えると安い」
一大産地の生産が減る一方で大分は増加
ところで、菊の一大産地は愛知県の渥美半島に位置する田原市だ。1980年代から1990年代にかけて、電照菊で隆盛を極めた。その実、菊に仏花としてのイメージを定着させ、消費を伸ばしたのは、かつて田原市の菊農家だった小久保さんその人だ。その後、お花屋さん(愛知県田原市)という、JA外の菊の生産者団体としては最大のグループを構築し、2004年に大分県に移った。
今でも田原市は最大の産地だ。しかし、小久保さんによると、菊農家はかつての半分まで減っているという。
福岡県八女市も輪菊の大産地だが、同様にほぼ半減だそうだ。全国の輪菊の出荷量を見ても、2002年産で11億5500万本だったのが、2020年産は7億4700万本まで減っている(農林水産省の作況調査より)。消費の減少や輸入ものの増加、重油代の値上がりの影響が大きいとみられる。一方で、農家数も栽培面積も増えているのが大分県で、これを牽引するのが小久保さんだ。
お花屋さんグループの菊は品質が高く評価されていて、顧客がついている。そこで、お花屋さんぶんご清川で働く少なくない若者に、大分県内で独立して農場を持たせる「のれん分け」を続けているのだ。2020年だけで3人が豊後大野市内で独立を予定している。
コロナ禍に伴う葬儀の自粛や規模縮小で、一時的に菊の需要が減った時期もあった。しかし、お花屋さんグループに関しては、仏花の需要は戻っているという。
今後も安定供給を続けるための一手として、ロボットの開発に期待がかかっている。
有限会社お花屋さんぶんご清川
https://ohanayasanbungokiyokawa7.webnode.jp/
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