宇宙から稲の生育を監視し、可変施肥で最高品質の「山田錦」を目指す
稲作農家でつくる新潟県山田錦協議会などは、宇宙から稲の生育を監視する試みに乗り出した。
衛星画像を解析して稲の生育状況を示す植生指数(NDVI)を把握。地図データでNDVIを数値別に色分けし、GPSを使った無人ヘリによる可変施肥につなげる。緻密な栽培管理で全国最高品質の「山田錦」を目指す。
8月上旬、太陽が照り付ける中、見附市の水田に同協議会の会員農家らが集まった。無人ヘリによる肥料の散布を見学するためだ。
これだけなら全国の米産地では馴染みの光景といえる。従来と異なるのは、画像診断によって「山田錦」の稲の生育のむらを把握し、それに応じて可変施肥をする点だ。
同協議会の依頼を受けて、ドローンによるリモートセンシングと画像解析を事前に行っていたのは、ヤンマー株式会社とコニカミノルタ株式会社の合弁会社であるファームアイ株式会社。同社はドローンを飛ばし、撮影した水田の画像から3cm四方ごとに生育のむらを洗い出した。
無人ヘリはそのデータを基に、1m進むたびに横幅5mの間隔でまいていく。地力に応じて散布量は1.5kg ± 0.5kgで微調整する。
この日、ヤンマーの職員による操縦で飛び立った無人ヘリはものの数分で一枚30aの水田で肥料をまき終えた。同協議会の岩渕忠男会長は「暑い中を歩いて葉色を見ながら、肥料を散布するのは体力的にきつい。だいたい一往復したら、30分休むといった感じで作業をしてきた。ドローンでまけるならとても楽になる」と期待する。
ただし、ここまでなら類似の取り組みは散見されるようになっている。同協議会の取り組みが全国でも例がないのは、ドローンで撮影する前に、まずは衛星画像で生育のむらをざっくりと把握することだ。10m四方のメッシュ画像を入手し、それをNDVIに処理して会員農家に提供する。メッシュがなぜ10m四方かといえば、この範囲ならば無償で入手できるからだ。
目指すサービスは次のようなイメージだ。
まずは衛星画像を解析して、生育の遅れで気になる箇所を見つけ出す。その箇所に限りドローンを飛ばして再度確認し、必要に応じて可変施肥をするといった流れだ。これによりドローンを飛ばす時間を減らし、安価にサービスを提供できると見込んでいる。一連の情報は30分ごとに更新し、会員の農家はスマートフォンで確認できる。
このサービスを提供する予定なのは、有人宇宙システム株式会社(JAMSS)。同社は国際宇宙ステーションでの日本実験棟「きぼう」の運用や利用の支援のほか、民間による衛星利用を促進する事業を展開している。今回のプロジェクトでは独自のプラットフォームを構築し、衛星画像のほか、アメダスやドローンなどのロボット、長岡高専が開発するセンサー「TAMBOO」なども含めて、収穫量などのデータをクラウドサーバーで管理。そして、一連のデータから稲の生育のむらや収穫の適期などの情報について、農家がパソコンやスマートフォンで見られるシステムを構築する。
JAMSS 宇宙事業部宇宙利用革新グループリーダーの伊巻和弥氏は、衛星画像の利点をこう語る。
「衛星画像を使う利点は、(生育状況を)大づかみにできることと、短時間にデータを更新できること。ドローンだけでセンシングするとなると、1、2回撮影するのがせいぜいですからね。
そのあとは、過去の気象データなどを基に生育を予測することになります。ただ、最近は気象の変化が激しいので、その予測が外れることが多いのが難点です」
データの出どころは見附市を含む9市、40の個人農家や農業法人に及ぶ。稲という同じ品目についてまとまった区域でデータを収集することで、より多くの知見やノウハウが生み出せるとみている。
同協議会が生産した「山田錦」を出荷するのは醸造会社・旭酒造。旭酒造は製造する日本酒「獺祭」の原料「山田錦」の品質で頂点を決めるコンテストを2020年2月に開催する。1位の買い取り価格は1俵50万円、出品単位は50俵なので実質2500万円だ。全国の産地が名乗りを上げる中、同協議会も今回の実験でその栄誉を狙う。
衛星画像を解析して稲の生育状況を示す植生指数(NDVI)を把握。地図データでNDVIを数値別に色分けし、GPSを使った無人ヘリによる可変施肥につなげる。緻密な栽培管理で全国最高品質の「山田錦」を目指す。
衛星画像とドローンを組み合わせて効率的な施肥を実現
8月上旬、太陽が照り付ける中、見附市の水田に同協議会の会員農家らが集まった。無人ヘリによる肥料の散布を見学するためだ。
これだけなら全国の米産地では馴染みの光景といえる。従来と異なるのは、画像診断によって「山田錦」の稲の生育のむらを把握し、それに応じて可変施肥をする点だ。
同協議会の依頼を受けて、ドローンによるリモートセンシングと画像解析を事前に行っていたのは、ヤンマー株式会社とコニカミノルタ株式会社の合弁会社であるファームアイ株式会社。同社はドローンを飛ばし、撮影した水田の画像から3cm四方ごとに生育のむらを洗い出した。
無人ヘリはそのデータを基に、1m進むたびに横幅5mの間隔でまいていく。地力に応じて散布量は1.5kg ± 0.5kgで微調整する。
この日、ヤンマーの職員による操縦で飛び立った無人ヘリはものの数分で一枚30aの水田で肥料をまき終えた。同協議会の岩渕忠男会長は「暑い中を歩いて葉色を見ながら、肥料を散布するのは体力的にきつい。だいたい一往復したら、30分休むといった感じで作業をしてきた。ドローンでまけるならとても楽になる」と期待する。
ただし、ここまでなら類似の取り組みは散見されるようになっている。同協議会の取り組みが全国でも例がないのは、ドローンで撮影する前に、まずは衛星画像で生育のむらをざっくりと把握することだ。10m四方のメッシュ画像を入手し、それをNDVIに処理して会員農家に提供する。メッシュがなぜ10m四方かといえば、この範囲ならば無償で入手できるからだ。
30分更新の最新情報を農家が安価に確認できるシステムに
目指すサービスは次のようなイメージだ。
まずは衛星画像を解析して、生育の遅れで気になる箇所を見つけ出す。その箇所に限りドローンを飛ばして再度確認し、必要に応じて可変施肥をするといった流れだ。これによりドローンを飛ばす時間を減らし、安価にサービスを提供できると見込んでいる。一連の情報は30分ごとに更新し、会員の農家はスマートフォンで確認できる。
このサービスを提供する予定なのは、有人宇宙システム株式会社(JAMSS)。同社は国際宇宙ステーションでの日本実験棟「きぼう」の運用や利用の支援のほか、民間による衛星利用を促進する事業を展開している。今回のプロジェクトでは独自のプラットフォームを構築し、衛星画像のほか、アメダスやドローンなどのロボット、長岡高専が開発するセンサー「TAMBOO」なども含めて、収穫量などのデータをクラウドサーバーで管理。そして、一連のデータから稲の生育のむらや収穫の適期などの情報について、農家がパソコンやスマートフォンで見られるシステムを構築する。
JAMSS 宇宙事業部宇宙利用革新グループリーダーの伊巻和弥氏は、衛星画像の利点をこう語る。
「衛星画像を使う利点は、(生育状況を)大づかみにできることと、短時間にデータを更新できること。ドローンだけでセンシングするとなると、1、2回撮影するのがせいぜいですからね。
そのあとは、過去の気象データなどを基に生育を予測することになります。ただ、最近は気象の変化が激しいので、その予測が外れることが多いのが難点です」
データの出どころは見附市を含む9市、40の個人農家や農業法人に及ぶ。稲という同じ品目についてまとまった区域でデータを収集することで、より多くの知見やノウハウが生み出せるとみている。
NDVIデータの活用で高品質米な「山田錦」の名誉を狙う
同協議会では、一部の水田で年によっては10a当たりの収量が4俵まで減少したこともあった。例年の平均収量は会員や圃場によって異なり、同6~9俵。今回のプロジェクトで掲げる目標としては平均収量を10%増やすほか、労働時間を30%、経費を15%削る。システムを構築した後のランニングコストは、1圃場当たり約2000円を見込む。同協議会が生産した「山田錦」を出荷するのは醸造会社・旭酒造。旭酒造は製造する日本酒「獺祭」の原料「山田錦」の品質で頂点を決めるコンテストを2020年2月に開催する。1位の買い取り価格は1俵50万円、出品単位は50俵なので実質2500万円だ。全国の産地が名乗りを上げる中、同協議会も今回の実験でその栄誉を狙う。
本プロジェクトは総務省の「地域IoT実装推進事業」を活用。参加するのはエコライス新潟のほか、見附市や同市農業委員会、長岡高専、ジーエスワークスなど。
新潟県山田錦協議会は県内の稲作農家らが2015年に設立。栽培基準を設け、品質を一層高めることにした。会員は約80の個人農家や農業法人。2019年産の生産数量目標は1万俵。
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