農業法人で穀粒判別器を導入した理由 〜新型は政府備蓄米で利あり

目視で行われてきたコメの農産物検査で2020年産から、一部項目の検査について穀粒判別器の活用が認可された。

農業法人はどのような考えからこの機器を導入し、どう使いこなしているのか。茨城県五霞町の有限会社シャリー(代表・鈴木一男さん)を訪ねた。


約130の事業者に直販

まずはシャリーの経営概況を伝えたい。


経営耕地面積は80ha(2019年実績)。このうち水稲の作付面積は70haで、町全体の13%を占める。品種の内訳は「ふくまる」「あさひの夢」「ひとめぼれ」「コシヒカリ」など。販売先はほぼすべて中食と外食。首都圏の給食センターや大学の学食、病院など130ほどの事業者に直接販売している。

実需者と安定した取引を続けるための施設は充実している。1日当たりの乾燥能力が8ha分のライスセンター、1日当たり16tを処理する精米工場、低温貯蔵庫、色彩選別機やガラス選別機を備える。

この施設では周囲の農家からも集荷を受け付けている。取扱量は年間4500俵。もみで運んできてもらい、乾燥調製した後、自家用の分だけ持ち帰ってもらう。残りをシャリーが農産物検査を行った後、買い取る。

シャリーは農林水産省から農産物検査が行える登録検査機関に認定され、鈴木さんが農産物検査員の資格を有している。

他に民間の集荷業者からも玄米を仕入れており、自社での生産と合わせると年間1万5000俵を扱っている。


2020年産の検査対象は着色粒と死米、胴割粒、砕粒

さて、本題の穀粒判別器に入ろう。

シャリーが今回導入したのは株式会社ケツト科学研究所(東京)の機器。認定器の製造会社はほかに、株式会社サタケと静岡製機株式会社の2社がある。


シャリーが導入したケツト科学研究所の機器を使えば、上の表の項目について、その有無を正確に計測できる。

ただし、農産物検査で認められているのは2020年産時点で着色粒、死米、胴割粒、砕粒の4項目。これ以外は従来通り目視で検査しなければならない。登録検査機関はいずれにせよ目視での検査をしなければいけないので、穀粒判別器を使うのは、現状では二度手間になるといっていい。それでも機器を使うのにはもちろん理由がある。


役割は目視の「補助器」

シャリーは認定器ではないものの、約10年前から別の会社の穀粒判別器を使ってきた。導入した目的は、目視では判断が難しい米粒について穀粒判別器にかけ、等級を決める参考にするためだ。

特に頼りにしているのは基部未熟粒の判定である。

専務の鈴木哲行さんは「基部未熟粒は分かりにくいものが多いです。これが多発した年には目視で見極められず、買い手からクレームが多発することがあると聞いています。目視で判定しにくいことを代わってもらう「補助器」として扱っています」。

認定器でも「補助器」であることは変わらない。


データによる製品の価値の創造と品質の担保

目視と穀粒判別器による検査のデータは等級を決めるのに役立てるほか、要望に応じて定期的に精米品質データを顧客に送る。加えて、新潟県三条市の株式会社システムエースの既製品に農産物検査ソフトと精米品質管理ソフトを組み込み、約400万円かけて改良してもらった販売管理システムに蓄積する。

シャリーが独自に開発を依頼した販売管理システム
鈴木さんはこれを「うちの頭脳」と呼んでいる。自主検査を終えて検査した日付ごとに白度や水分、正常粒、粉状質粒、被害粒、着色粒、砕粒、異色穀粒などの割合がずらりと出る。

シャリーは一つの農家や集荷業者のコメだけで製品にすることはない。通年で品質の均一性を保つためだ。

販売管理システムでは、製品をつくるのに、どの農家や集荷業者のコメをどれくらいの割合で混ぜたのかといったデータも入っている。その目的は品質の担保と価値の創造にある。

穀粒判別器の検査データ
「品質についていえば、業務用の場合は年間通して均一なものを出さないといけないじゃないですか。食品製造会社は例えば正常粒90%以上とか、具体的な数字で求めてきます。そうした製品をつくるうえでデータは欠かせません」

製品にしてみて求める数値を下回ったら、どの原料がその要因になっているかを特定。そのうえで混合する原料や割合を見直せる。このシステムでは集荷相手ごとに仕入れ量や歩留まり、キログラム当たりの単価も算出してくれる。結果的に売上総利益も日々追える。

「こういうシステムを導入しないとやってられないんじゃないですか。手で計算してたら、“狂い”が出てきますからね」


以上、シャリーにとっての穀粒判別器の役割をあらためて確認すると、何よりも目視の「補助器」である。従来器と認定器の違いについては、検査の精度では「ある」かもしれないものの、導入した目的であるコメという製品の価値の創造と品質の担保では「ない」。

鈴木さんは「いまのところ認定器を導入したほうが有益であるのは、政府備蓄米のB区分の入札だけではないか」と説明する。

農林水産省は2020年産の政府備蓄米の買い入れ価格でB区分に限り、穀粒判別器の認定器で検査すれば、従来の目視検査よりも60kg当たり70円安く買い取ることにした。つまり、この金額だけ手間が減るという考えである。

これだと農家にとって販売単価は下がってしまうが、話には続きがある。政府備蓄米A区分で出荷した場合、1等と2等の価格差は300円。着色粒の割合はそれぞれ0.1%未満、0.3%未満である。

一方、政府備蓄米B区分の買い入れ規格は着色粒を含めた被害粒の混入割合を4.0%としている。つまり政府備蓄米A区分よりも規格がずっと緩く、政府備蓄米A区分だと2等になるロットでも、政府備蓄米のB区分に通りやすい。

差し引かれる額は、政府備蓄米A区分での1等との価格差300円よりも、政府備蓄米B区分の70円のほうが低い。つまり農家にとって儲かるようになっているわけだ。

コロナ禍で2021年産の米価も低迷するのは必至であるなか、リスクヘッジの手段としても知っておいて損はない仕組みだろう。

有限会社シャリー
http://www.shally.co.jp/

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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