【スマート農業×ドローン】2機同時の自動航行で短時間で農薬散布──DJI×シンジェンタ実証実験レポート

DJI JAPANとシンジェンタジャパンが協力し、茨城県龍ケ崎市の横田農場でドローン2機による自動航行での除草剤散布を披露した。1人のオペレーターが見守る中、2機が飛び立ち、8.4反(84アール)に除草剤を5分足らずでまいた。

一枚の広さが5反を超えるような広い田んぼが並ぶ横田農場の一角で、ドローン2機がブーンと羽音を立てながら飛び立った。1機は田んぼの東南の角から、もう1機は田んぼの東側中央から散布を開始。1枚の田んぼの北半分と南半分を2機で分担し、それぞれが4メートルの幅で除草剤をまきながら往復する。作業は5分もかからずに終了した。

2台で同時飛行するDJIの農業用ドローン。本体下部の白い部分から散布しながら飛行する。なお、同時飛行は5台まで可能

ドローンを使った散布のあるべき姿

注目すべきは、自動航行だったことと、2機による編隊飛行だったこと。デモンストレーションに参加したDJI JAPAN代表取締役の呉韜(とう)さんは「複数台、同時に自動で散布を行うこと。これがドローンを使った空中散布のあるべき姿ではないか」と強調した。

DJI JAPAN代表取締役の呉韜さん

事前にDJIの空撮用ドローン「Phantom 4 RTK」を田んぼの60メートル上空を飛ばして測量し、正確な地図を作った。10~20分という短い時間で10~20ヘクタールの測量ができるので、空撮による地図作製は大規模生産者にとってかなりの時短になる。この地図上で散布の幅と速度、高度を設定し、散布ルートを決めた。

会場に展示されていたPhantom 4 RTK。作成した地図を送信機場でなぞるだけで、自動航行のルートを指定できる

機体はDJIの「AGRAS(アグラス)MG-1P RTK」。農薬や肥料などの散布用に開発した機体だ。プロペラ数が8枚で、直径150cmほど、高さ60cm強と大きい。散布中によくある木の枝や電線に引っかかるといった事故の防止に高精度マイクロ波レーダーを搭載し、障害物を検知する。もし事故でプロペラの1枚が止まっても、残りのプロペラで支障なく飛行できる。急に雨が降っても墜落の心配はない。

AGRAS MG-1P RTK。左の黄色いバーで圃場の位置を指定することで、GPSでは測りきれない誤差を調整する

タンクには資材を10リットルまで搭載でき、散布幅は4メートルほど。バッテリーの持ち時間は10分で、一度の飛行で1ヘクタールに散布できる。編隊飛行は最大で5機まで可能だ。

散布したのはシンジェンタの「アクシズMX 1キロ粒剤」で、田植え後7~20日前後の幅広い雑草に効果がある。通常の除草剤に比べ、さまざまな成長具合の雑草に効くので、田植え作業が長期間にわたる大規模生産者で、田んぼごとに雑草の生育状況が違っていてもまとめて雑草の防除ができ、便利だ。


ドローン向けの製剤を進化

シンジェンタジャパン代表取締役の的場稔さんは「ドローン向けの製剤(薬剤)を進化させるのが我々の役目」と発言。まずは水稲向けの薬剤を充実させていくと誓っていた。

シンジェンタジャパン代表取締役の的場稔さん

デモンストレーションのフィールドを提供した横田農場は、150ヘクタールで水稲8品種を生産する。2カ月以上にわたって田植えをしており、デモンストレーションのあった6月25日にようやく田植えを終えたところ。面積が広大で作期が分散しているため、アクシズMX1キログラム粒剤のドローン散布に適している。

アクシズMXの1キロ粒剤

ノビエの成長と散布時期の参考例。効果が持続する期間が広く、少ない回数の散布で済むという

代表取締役の横田修一さんは、散布の終了後、こう話した。

「生産現場が大きく変わっているので、その中で使われる技術も変わっていくべきです。新しい技術の中でも、ドローンにかける期待は大きい。DJIの本拠地の中国ですでに実績のあるものを使うので、現場ですぐに役立つものだと感じています」

横田農場 代表取締役の横田修一さん

横田さん自身、周辺農家の高齢化と離農を受けて、毎年10ヘクタールずつ面積が増え、これまでと同じやり方を続けるのは難しいと感じていたという。もともと近隣で無人ヘリを持っている人に除草剤の散布作業を委託していたが、希望通りの時期にまいてくれるとは限らず、中古の無人ヘリを購入し、自前で散布してきた。

「こういうドローンであれば、中古のヘリよりも安いですね」(横田さん)

今回はもう1種類、軽量で拡散性に優れる豆粒粒剤「ジャンダルムMX」もデモ飛行を実施

水面を泳ぐように溶けていくジャンダルムの場合、効果範囲が約10mと広いため、まんべんなく効果が行き渡ると期待されている


同業者間の競争よりも異業種間で連携を

メリットと感じるのは価格の安さと自動航行できること。これまではドローンにせよ無人ヘリにせよ、オペレーターが手動で操縦しなければならなかったが、今後ドローンの自動航行が解禁されれば状況は一変する。「1人を作業に貼り付けないといけないものには、興味がありませんでした。でも、自動航行であれば、有人監視の状態で、他の作業をしながら散布することができるかもしれない」と期待する。

DJIとシンジェンタから、技術のブラッシュアップを続けるという発言があった後、横田さんはこう言って注文を付けた。

「農薬メーカーは、なるべく安くて長く効く資材を作ろうと、100点満点中95点とか97点というかなり高いところで競い合っています。それも必要なのかもしれないが、むしろ80点でもいいんじゃないか。それよりも、散布装置や機械も含めて僕らの経営の中でどううまく使うかを考えることこそが、経営の改善につながっていくと思います」

農業用資材単独の質を上げるのではなく、関連する機械メーカーや農家と開発段階から連携した方が、よりニーズに合ったものを作れるという指摘だ。

「機械メーカーと農薬メーカー、そして我々現場が一体となって、新しい技術を作っていくことが必要」

横田さんは稲作経営者の自主組織である全国稲作経営者会議青年部の顧問を務めており、青年部として開発に必要な実証の場を提供したいとも話している。提案の実現に期待したい。



<参考URL>
DJI AGRAS MG-1P RTK
アクシズMX1キロ粒剤|シンジェンタジャパン
横田農場|おいしくて安全なお米の生産直売 横田農場

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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