農業関係者がスマート農業事例を交流するFacebookコミュニティ「明るく楽しく農業ICTを始めよう! スマート農業 事例集」とは?

スマート農業はなにも企業が開発したものばかりではありません。最近では個人でもAmazonなどで安価なセンサーや、それらを制御するための小型パソコン「Raspberry Pi」(ラズベリーパイ。略称ラズパイ)、ICTデバイスなどを活用したシステムを開発している農家も増えてきています。

そして、こういったスマート農業の情報交換も、昔のように隣近所もしくは指導員から降りてくるだけではなく、ウェブサイトやSNSコミュニティなどで紹介されることが常になってきています。

そんな個人レベルのスマート農業に興味がある方たちが、ノウハウの共有や情報交換をさかんに行っているFacebookグループが、「明るく楽しく農業ICTを始めよう! スマート農業 事例集」です。

コミュニティの管理人である小林彰一さんは、長く農業に関わった経験を生かして個人的にセンシングシステムを開発したりしながら、参加者同士の交流を積極的に行っています。その人数は9月末時点で1500名超。おそらくいま日本でスマート農業について一番、農家自身が体験談やノウハウを共有しているコミュニティだと思います。

いったいなぜこんなコミュニティを立ち上げたのか、そして交流されている方々はどんな立場の方々なのか──管理人の小林さんに直接お話を伺いました。


始まりは「Flower Care」というセンサー

そもそも小林さんがこのFacebookグループを立ち上げたのは、「Flower Care」という3000円程度(海外通販の価格。Amazonでは1万円前後で販売中)の園芸用センサーがきっかけでした。

出典:Flower Care Smart Monitor

「『Flower Care』は中国のHHCC Plant Technologyという会社の製品で、日照、水分、温度、肥沃度を黒いセンサー部分で計測して内部にロギングできるという園芸用センサーです。コイン電池で1年間駆動して、データは専用スマートフォンアプリを使ってBluetooth接続で吸い取り、そのままクラウドサーバーにアップして分析するという仕組みです」

園芸用のこのセンサーが農業にも使えるかもしれないと考えた小林さんが「Flower Care事例集」というFacebookグループを作ったのは、2018年10月のこと。計測できるデータは限られていたものの、これくらいのレベルでも何もしないより十分に役に立ち、導入も容易だったことから、ノウハウを共有したいと考えたそうです。

その裏には、スマート農業として提供・販売されている既存製品の初期費用が高すぎるという問題意識がありました。

「それまでの私にはずっと、スマート農業って高級な農業用ハウスで、コンピューターなどをつけて制御するもの、という高額な製品のイメージがあったんです。でもそれは、世の中の生産者の99%には採用されないし、採用しない生産者たちにはなんの恩恵もない。

それよりも、いち農家が困っているのは、水をやりすぎたとか、ハウス内の気温が上がりすぎたとか、日常的な作業の問題を解決できるようなシンプルな対策。そんなよくある問題点を解決するスマートデバイスがずっと欲しかったんです。

そんな時にこの『Flower Care』と出会って、農業現場での活用方法を議論する場を作ろうとしたのが、グループを立ち上げたきっかけでした」

最初の4カ月くらいは「Flower Care」の使い方やノウハウを語っていた小林さんですが、次第に「こういうものに興味がある人は、もっと高度なことをやりたいと思っている」ことに気づきます。そして、「Flower Care 事例集」という名称を「スマート農業事例集」に変更。そこから一気に多くの参加者が集まり、スマート農業に関する情報を欲している人が増え始めました。

ただ、「個人的にはもっと自作システムの話題が出るかなと思っていたんですが、ドローンやセンサー付きハウスなどをこんなふうに使っているよ、といった話題が多くを占めていますね」と、当初の予想とは違う方向性だったとのこと。結果的には規模の大小を問わず、多くの参加者が自身のスマート農業の体験談を語ったり、ノウハウを共有して学び合う場になっています。

1年間コミュニティを運営してきた小林さんのいまの問題意識は、「より簡単に電源や知識がない人でもスマート農業を導入できないか」というもの。そのために、「高専や大学の工学部で学ばれている学生さんとか、企業でスマート農業を実際に開発されている方とかも参加していただけたら。5〜10万円くらいでできる安価なものから、もっと多くの方がスマート農業を試せるといいなと思っています」と語り、手軽に成果が上げられるようなスマート農業デバイスやシステムをこれからも紹介していきたいと語ってくれました。


小林さんが制作した温度湿度センサーシステムとは?

そんな小林さんは、前述のとおり、ご自身でも温度湿度センサーシステムを開発し、テスト運用しています。プログラミングの知識がなければ制作は難しいかもしれませんが、どのようなものなのか、小林さんご自身にご紹介いただきました。

出典:小林彰一

システム構成
  • 軽トラ用バッテリー
  • パワーコントローラー
  • 12v-5vUSB コンバーター
  • DOIT ESP32 DEVKIT(マイクロコンピュータ)
  • 温度センサーAM2302(DHT22)
  • 配線材
※WiFi接続環境が必須。

仕様
動作中は30分に1回、温度、湿度の値をセンサーで取得し、その2つの値から飽差を計算します。開始時刻は電源オンと同時で、ユーザーが指定することはできません。ESP32をリセットする(ENボタンをクリックする)と、その時点の時刻から記録開始させることができます。

取得したデータは、クラウドサービス「Ambidata.io」のアドレスをスマホもしくはパソコンのブラウザで開くとグラフ形式で見ることができます。グラフの端点をタップもしくはマウスカーソルを近づけると吹き出しが出て、記録した日時とデータの内容が表示できます。


このシステムで実現したいこと

施設園芸での飽差管理をすることが目的です。測定結果をクラウドサービスに送り、グラフ化したいと考えました。

既存の施設園芸向けのセンサー端末には、コストが高く、センサー数を増やせないという不満がありました。また、電源のない条件で使いたいとも考えました。

システムを作ったきっかけ

イチゴ施設園芸のスマート農業先進事例の情報収集をしたところ、篤農家と駆け出し農家では換気の上手下手が計測結果に出ており、如実に収量に影響すると聞きました。

明け方、ハウス内が結露すると湿度100%の状態になりますが、このような高湿度環境では日照があっても光合成はほとんど行われません。湿度が高すぎて蒸散ができなくなるためです。このような温度と湿度の関係を「飽差」と言いますが、飽差はマイコンで計算できるので、できるだけ早く湿度を逃して光合成できる環境を作ってあげる必要があります。

名人は早い時間帯からごくわずかずつ換気をして湿度を逃しますが、技術の低い農家はハウス内が暑くなってから全開にして換気したりしています。この乱暴な換気のせいで、結果的に光合成する時間を減らしているのです。

ハウス内の室温を下げないように細心の注意を払って換気するのと、いきなり全開にして冷たい空気を入れるのでは、イチゴへのダメージが全く違うとのこと。それを検証しようと思い、試作品を作りました。

イチゴの場合、ハウスの開口部や中央部などいくつもの場所にセンサーを置き、リアルタイムで監視するのが望ましいと思いましたが、そういうことができる安価なセンサー端末はありませんでした。

今回はセンサー1個のみのプロトタイプですが、プログラムを修正すれば10個以上のセンサーをつなぐことも可能になります。

温度湿度データをクラウドに送り、グラフ化することで、いつでも誰でもデータを確認して検証できることにも取り組みました。電源については、イチゴの場合確保できている場合が多いのですが、今後他の作物への展開を考えて太陽光パネルと自動車用バッテリーによる運用を付け加えました。

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現在もこのシステムは自宅のプランターで稼働しており、スマホなどを使っていつでもどこでも閲覧することができます。一昔前なら高額な費用がかかり、個人が作るのは難しかったこのようなシステムも、現在は安価なセンサーと小さなコンピューターを用いることで運用することは可能になってきているんです。

ただし、このような仕組みさえも、高齢化した農家の方々がいまから知識を身につけて導入するには高い障壁があります。それを解決できるのも、これからは「明るく楽しく農業ICTを始めよう! スマート農業 事例集」のように、いつでもどこでも困ったことを相談できる“仲間”なのかもしれません。

興味を持たれた方は、Facebookグループ「明るく楽しく農業ICTを始めよう! スマート農業 事例集」にぜひ参加してみてください。きっと「スマート農業」を不安に思っていたり、否定的なイメージを持っている方でも、「実際に導入したい」もしくは「自分でも開発してみたい」と思えるようなシステムに出会えると思います。


明るく楽しく農業ICTを始めよう! スマート農業 事例集(非公開グループ)
Flower Care Smart Monitor

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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