大規模畑作の経営者が“アナログなマニュアル化”を進める理由 〜北海道・三浦農場

北海道音更町の三浦農場が目指すのは、経営者が不在にしていても、従業員がほとんどの仕事をこなせる「多能化」だ。そのために力を入れているのは農作業に関わるマニュアルの作成である。

経営規模の拡大におけるその役割と効果について、三浦農場代表の三浦尚史さん(51)に聞いた。

株式会社三浦農場代表・三浦尚史さん

経営耕地面積は十勝平均の倍以上の106ha


待ち合わせ場所に到着すると、代表の三浦さんがちょうどジョンディアのトラクターで戻ってきたときだった。約束の時間ぴったりである。

三浦農場が経営する面積は106ha。十勝地方における平均的な畑作農家の倍以上だ。主に作っているのは小豆や大豆、小麦、ビート、長いもである。5人いる従業員は正社員が2人、季節雇用が3人。規模の拡大に伴って増やしてきた。

「まずは現場を見ましょう」。そう言って三浦さんがさっそく案内してくれたのは納屋。入った左手には、工具を掛けておくための網棚がずらりと並ぶ。


そばにはステンレス製の車輪が付いたラックが置かれ、それぞれの工具が箱に入れられて各棚に収納されている。


「ごちゃごちゃしているとすぐに取り出せないから整理しているんです」


「ボード」や「はがき」で作業の段取りを見える化


続いて見せてくれたのは白色のボードだ。小豆や大豆など作目別に1枚ずつ用意して、網棚に掛けている。


それぞれのボードには、作業が上から下に向かって黒字もしくは青字で書かれている。順序として、まずは1週間先の作業予定日を青字で記す。続いて作業が終わったら消して、黒字でその日付を書き直す。

「『農家あるある』だけど、どういう作業をどういう段取りでこなすかは経営者の頭の中にあっても、従業員には共有されていない。それを目に見せるようにしたいなと思って始めました。農地の枚数が増えたことで、農薬のまき損じなどが起きやすいので、それを防ぐ意味もあります」

網棚の下には箱があり、中にははがき大の紙が入っている。紙を裏返すと、まさにはがきだった。


「今年から始めた作業の指示書です」と三浦さん。

表には複数の枠があり、それぞれ「作業名」「責任者」「必要な道具」「作業日報」「標準時間」を書く欄になっている。播種や定植などの大型農機を使わない作業について、今年は三浦さんが「作業名」と「必要な資材」を書いて、各従業員に渡している。

従業員ははがきを取り出して、指示された作業をこなした後、各欄に記入していく。来年からは作業ごとに必要な道具はマニュアルにして、従業員は指示された作業名だけで自ら必要な道具を判断できるようにする。

三浦さんは「私がいないとできないことは減らして、従業員が自発的に動けるようにしたいんです」と語る。

記入する項目のうち「標準時間」は従業員が過去の作業時間を踏まえて平均値を毎回算出する。その時の作業時間が標準時間より多ければ、なぜ遅れたのかの原因を探していく。


マニュアルで自動操舵装置も各作業に対応


続いて向かったのは、トラクターを収納してある格納庫。三浦さんはそのうちの1台に乗り込むと、ファイルを取ってすぐに降りてきた。使い古されたファイルの中にあるのは作業機ごとのマニュアル。「トップリンク長さ・種類」「トップリンク取付位置」「振り止め張り具合」「ギア」「エンジン回転数」などの項目別に適切な作業が記されている。


「ただ、最近はこれだけでは間に合わないんです」。そう言って三浦さんは再びトラクターに乗り込み、別のファイルを取り出してきた。

「急速に普及している自動操舵のためのマニュアルです」


北海道では、GPSガイダンスシステムや自動操舵装置といったスマート農機の普及が進んでいる。北海道の独自調査によると、どちらのシステムも、主要な農機メーカー8社の累計出荷台数の約8割が北海道だ。道庁によると、とりわけ十勝、オホーツク地方という畑作地帯で普及しているという。三浦さんもまた、14台あるトラクターのうち複数台について、GPSガイダンスシステムと自動操舵装置を装備させている。

三浦さんは圃場と作業ごとにどういう経路で走行すればいいかについても紙に書き込んでいる。従業員は紙に記載された経路の番号を端末に入力して設定すれば、あとはGPSオートガイダンスが自動で操舵してくれる。


アナログなマニュアルで、デジタル技術を使いこなす


最後に見せてくれたのは機械の修理や清掃のためのマニュアルだ。機械のグリスアップや輸送チェーンが外れたときの対処などの手順をA4の紙に写真入りで説明している。

三浦さんが資材の置き場を整理したほか、マニュアルを作ることにしたのは、前職で学んだことが影響している。

家業である農業を始めるまで勤めたのは東洋農機株式会社(帯広市)。ディスクハローやサブソイラ、鎮圧ローラーなどを製造する農機メーカーだ。

配属されたのは営業関連部署だったものの、工場での整理・整頓やマニュアルによる従業員の教育を学ぶ研修会が毎年開催されて、参加が義務付けられていた。三浦さんは「これがいまにつながってます」と語る。

アナログなやり方で業務の改善を図る三浦農場。デジタル化しなくてもできることはたくさんあることの好例である。


三浦農場 | スマート農業を実践し北海道の未来をつくる農場
https://miura-farm.com/

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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