農業参入企業が共通課題を解決する、北杜市農業企業コンソーシアムの実践<下>

企業が次々に参入し、農業団地が誕生している山梨県北杜市。前回紹介した有限会社アグリマインドだけではなく、ほかに参入した企業の多くが環境制御型の園芸施設でトマトやパプリカを生産している。

また、参入企業が共通の課題を解決するため、「北杜市農業企業コンソーシアム」を形成している。

レポート後編では、参入企業のひとつ、株式会社リコペルの事例と、共通課題の解決策についてお伝えする。

隔離土でミニトマトを養液栽培──株式会社リコペル


今回もう1カ所訪ねた株式会社リコペルは、フェンロー型の園芸施設で隔離土を使ったミニトマトの養液栽培をしている。

土を地面から離して根域や土中の水分を制御することで、根に適度な乾燥ストレスを与え、果実の糖度はイチゴと同程度の12度にまで高めることに成功した。果実の色が日本の伝統色である「思い色」に近いところから「おもいろトマト」というブランドで販売している。

コンソーシアムを形成し、共通課題の解決へ

規模がそれなりに大きな農業法人が、同じ場所で同じような環境条件で営農すれば、共通した課題にぶつかるのは必然。そのため北杜市では、新たに参入してきた企業を中心に「北杜市農業企業コンソーシアム」を形成した。

加盟社はほかに、青果専門店・九州屋グループの株式会社明野九州屋ファームやイオンアグリ創造株式会社、株式会社オリエンタルランドなどが名を連ねる。また賛助会員として県や市、JA、日本政策金融公庫、山梨大学など産官学の多様な企業や組織が参加する。

コンソーシアムでは共通の課題を解決するため、「環境」「雇用」「物流」の分野で3つの部会を設けている。

環境部会の目的は農業残渣の処理やたい肥化。各農場の生産過程で出てくる茎や葉などで肥料をつくる。アグリマインドを視察した際、ちょうど園芸施設の広々とした選果場のエリアから茎や葉が大量に運び出されていくところだった。

物流部会の目的は、共同配送や新規販路の拡大。それから雇用部会の目的は人材不足の解消。当時の会員企業のうち13社の雇用実態について2017年に調査したところ、従業員数は459人。これが2年後には561人、5年後には670人が必要になるという結果になった。


とはいえ、他産業含めて企業はどこも人材不足。それに農業は概して他の製造業よりも高水準の時給を出すことは難しいため、すんなり雇えるはずもない。加えて1つの地域に大規模な農業経営体が固まってしまっているため、なおのこと人手を確保するのは難しい。外国人技能実習生の受け皿を整えることなどを検討してきた。

会員企業が増え、また個々の規模が広がる中、こうした課題の解決に対して今後も一緒に当たっていくという。


有限会社アグリマインド
農業生産法人 株式会社リコペル
北杜市農業企業コンソーシアム
【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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