国内最大の事業協同組合が求めた小麦「みのりのちから」の魅力と可能性

2020年(令和2年)3月末に公表された産地品種銘柄の新規認可の中に、小麦では北海道産「みのりのちから」が「パン用と中華麺用」の用途で入った。

申請者は北海道十勝地方を拠点にするチホク会。同一の作物を生産して集荷する事業協同組合としては国内最大で、道内の300戸を超える農家が計400ha以上で小麦を作る。

同じく超強力品種では「ゆめちから」がすでに存在していた。なぜ新たな品種を求めたのか。



日本の小麦自給率を上げるために生まれた「みのりのちから」

小麦の超強力品種としてすぐ思い浮かぶのは、農研機構が開発し、すでに産地品種銘柄となっている「ゆめちから」。いまや日本の1世帯当たりの支出額が主食の中でコメを抜いて最も多くなったパンの原料に使われている。

そもそもパンに適しているのは、グルテンが多くて粘性が高い強力粉。ただ、強力粉になるのは春に種をまき、盆に刈り取る品種ばかり。秋まきの品種と比べて春まき品種は栽培期間が短く、収穫期に雨が多いので作柄と品質が安定せず、広がらなかった。

このため「ゆめちから」の誕生前、国内で作付けされる9割以上が中力粉に向く秋まき品種だった。

引用:北海道の畑作をめぐる情勢 - 北海道 農政部 生産振興局 農産振興課[PDF]

そこに登場したのが、秋まきでありながら超強力の「ゆめちから」だ。中力粉と混ぜれば強力粉として使えるのではないか。そんな発想が現実のものとなり、国産志向が強い製パン業者に受け入れられ、道内で栽培面積が拡大していった。

しかし、そんな「ゆめちから」にも弱点はある。それは、農家が期待するほどに収量が取れないということだ。収入を増やしたい農家にとっても国産小麦をより求める製パン業者にとっても、収量が多い品種の到来は待ち遠しい。

とはいえ、品種改良には長い年月がかかる。そこでチホク会が目を向けたのが、すでに品種登録済みで、「ゆめちから」と同じく秋まき品種で、収量の10%アップが期待できる「みのりのちから」である。

農家への普及に当たって問題だったのは「みのりのちから」は産地品種銘柄ではなかったということ。つまり、作付けしても国からの交付金を受けられない。これでは増産につながらない。

そこでチホク会は今回の申請に至ったのだ。

小麦は日本人の主食になったものの、その食料自給率は12%に過ぎず、ほぼ輸入に頼っている。超強力品種の増産はこの数字を押し上げることにつながる以上、「みのりのちから」が産地品種銘柄に認可されたことは追い風である。

チホク会は2020年度にまずは試験栽培に取り掛かる。2019年度までよりも広範囲で作り、土壌や気候への適応性をみる。さらに製粉適性も確かめるつもりだ。北海道の農家にとって品種の選択肢が増えることを期待したい。


北海道の畑作をめぐる情勢 - 北海道 農政部 生産振興局 農産振興課
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/nsk/hatasakuwomegurujousei_reiwa0107.pdf
令和2年産産地品種銘柄一覧|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/sentaku/

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。