10aの収入試算が18万円となった「みのりのちから」

北海道音更町の穀物の集荷業者・株式会社山本忠信商店(以下、ヤマチュウ)は、小麦の多収性の超強力品種として普及を期待する「みのりのちから」について、栽培の初年度となる2020年産で「思っていた以上」という成績を上げた。

試験的に栽培をした幕別町と音更町の2カ所の平均収量は、10a当たり719kgと856kg(いずれも調製後)。超強力品種として先行して普及している「ゆめちから」の同558kg(予測)を大幅に超える数字だ。

以前の記事はこちら。
国内最大の事業協同組合が求めた小麦「みのりのちから」の魅力と可能性
https://smartagri-jp.com/smartagri/1346



農家の希望を叶える「みのりのちから」


北海道産「みのりのちから」は3月末に公表された産地品種銘柄の新規認可の中に「パン用と中華麺用」の用途で入った。申請者は小麦を作る農家の集まりであるチホク会(事務所はヤマチュウ)。同一の作物を生産して集荷する事業協同組合としては国内最大で、道内の300戸を超える農家が計4000ha以上で小麦を作る。

超強力品種では「ゆめちから」が存在するのに、なぜ新たな品種を求めたのかといえば、農家が期待するほどの収量がないからである。

収入を増やしたい農家にとっても国産小麦をより求める製パン業者にとっても、収量が多い品種の到来は待ち遠しい。とはいえ品種改良には長い年月がかかる。

そこでチホク会が目を向けたのが、すでに品種登録済みで、「ゆめちから」と同じく秋まき品種で、収量の10%アップが期待できるとみられていた「みのりのちから」だった。

試験栽培の結果はその期待を上回るもので、10a当たりの収入は音更町の856kgで試算すると18万2057円になる。ヤマチュウの予想では、道内の主力品種で多収性の「きたほなみ」は音更町での平均収量が630kgになる。


その場合の収入を試算すると10万6212円。差額の7万5845円だけ「みのりのちから」のほうが儲かる計算となる。「試験的に栽培した圃場はいい条件のところだった」(ヤマチュウ)という前提はあるものの、無視できない数字である。

ヤマチュウが今年試験的に栽培した面積は計3.3ha。今回の結果を受けて2021年は50haまで広げる。同時に製粉適性や加工適性もみていく。


「みのりのちから」の広がりを期待


「ゆめちから」は北海道だけではなく兵庫県や滋賀県を中心に府県でも栽培されるようになってきた。いずれも加工業者からの要望で始まった動きで、需要に供給が追い付いていないことは共通した課題である。

今回の好成績が、道外の産地でも「みのりのちから」の栽培を試すことのきっかけになってもらいたい。


みのりのちから|農研機構
https://www.naro.affrc.go.jp/collab/breed/0100/0108/045668.html
株式会社山本忠信商店
https://www.yamachu-tokachi.co.jp/
【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  2. 槇 紗加
    槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
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    沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  4. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  5. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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