収量を高める根の力 【窪田新之助のスマート農業コラム】

2020年に入って毎月のように取材で訪ねているところがある。

農業用施設の設計や施工、販売のほか環境制御機器の販売やコンサルティングをしている埼玉県春日部市の中村商事有限会社だ。

代表の中村淑浩さんには施設園芸について毎回多くのことを教えてもらっているが、本コラムでは収量を高めるうえで根が持つ力の一端を紹介したい。



高設栽培で放っておかれてしまう「水と肥料」


それは高設栽培で収量を高める上での留意点について中村さんに尋ねたときのことだった。

「統合環境制御」は気温や湿度、光などの環境因子のデータを測定しながら、天窓やカーテンの開閉、二酸化炭素の発生装置や加温機の稼働などを制御して、作物の光合成をできるだけ活発にすることを一つの目的としている。

さまざまな環境因子がある中、「生産現場で放っておかれがち」と中村さんが指摘したのは「水と肥料」だ。

「高設栽培では根っこが放ったらかしになっていることが多い。光や二酸化炭素が豊富にあったところで、根に供給する水と肥料が多かったり少なかったりすれば、光合成はそれ以上はできないのに。もったいないことです」

言うまでもなく光合成の原料は水と二酸化炭素であり、エネルギーとなるのが光である。これらを作物が欲するままに過不足なく与えることが収量を最大化することに直結する。

水と肥料の供給量を最適にすることがいかに大事か──。中村さんは面白い話を教えてくれた。


水と肥料を見直すだけで収量が変わる



場所はとある養液土耕栽培のキュウリ畑。そこで収量を高めるためのこんな実験の実例があったそうだ。

畝の片側の土を1mほど堀り上げ、そこから根が生えている方へ真横に、ゆるやかな登りの傾斜を付けて穴を空けた。その穴に樋(とい)をさし入れ、養液が過剰に供給されていたら流れてくる仕組みにしたのである。

手始めに養液の供給量は農家の慣行通りにしたところ、樋に排出されてこない。だんだんと増やすと同時に、廃液のpH(土壌酸度)やEC(電気伝導度)を測定することで、やがて適正と思われる養液量を導き出した。

もともとの収量は10a当たり10~12t。それがこの成果により、すぐに26~27tと、2倍超に増えたそうである。

同じような実験をするのは手間がかかるものの、収量が2倍以上も増えるのであれば、一度は試す価値があるかもしれない。ましてや高設栽培であれば、養液の供給量と排出量、pHやECのデータは取ろうと思えば自動的に取れる。

環境制御技術でさらなる増収を図るのであれば、いま一度根の力に注目するのも手ではないだろうか。

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
パックごはん定期便