いまなぜスマート農業なのか【窪田新之助のスマート農業コラム】

コラムの第一回目は、いまなぜスマート農業スマートアグリ)が話題になっているのかを取り上げよう。農林水産省によれば、スマート農業とは「ロボット技術ICTを活用して、超省力・高品質生産を実現する新たな農業」といった意味である。この説明文のうち、スマート農業が狙いとする「超省力」と「高品質」にその答えが隠されている。


まず超省力を目指すのは、農家がこれから激減し、残る農家が規模を広げながらも、限られた労働力で生産性の維持と向上しなければならなくなることが要因として大きい。農家の平均年齢はその実質的な定年である70歳にいよいよ迫っている。つまり向こう数年で大勢の農家が一斉に引退する「大量離農時代」を迎えているわけだ。ここがチャンスとばかりに規模を広げる農家はいる。一方、経営面積を拡大する意思はないものの、地域のしがらみから頼まれれば断りにくく、やむなく農地を受託する農家もいる。いずれにせよ、もとより人が少ない農村で労働力をどう確保するかは喫緊の課題だ。

そこで期待されるのが、人に代わって作業をしたり判断の材料を提供したりするロボットやICTというわけだ。とりわけロボットに関しては今年がその元年といえそうなほどに多くの種類のロボットが実用化される。

たとえば農機メーカー大手三社は人が操縦せずとも走行するロボットトラクターを市場に投入する。一方、中山間地向けでは日本総合研究所や慶応大学などの研究チームが、小型で小回りの利くロボット「Donkey(ドンキー)」を実用化する予定。特徴は多機能型。これ一台で種まきから定植、草刈り、モニタリング、画像分析、防除、施肥、収穫など幅広い作業をこなせる。人に代わって働くロボットがほかにも続々と田畑に出ていく。

スマート農業が目指すもう一つの高品質について。これはいくつかの局面から論じられるべきだが、紙数の関係で、ここでは農産物の食味について述べたい。農家の経営規模が広がって綿密に栽培管理できなくなっていることに加え、最近の夏場の高温もあって、農産物の食味が落ちている。代表的なのはコメだ。

そこで農機メーカー最大手のクボタは、コメの収穫と同時に食味(水分値とタンパク値)と収量を計測するセンサーを内蔵したコンバインを開発し、普及している。このコンバインがあれば、田んぼ一枚ごとに食味と収量の結果が確認できる。農家はその結果から問題点を洗い出し、改善点を検討することで、翌年の食味を上げていく。

こうした農業のロボット化や情報化がもたらす効果はまだまだ語りつくせぬことがある。「SMART AGRI」では、本コラムでその大筋を示しながら、連載や単発記事でより具体的な話を紹介していくつもりである。


<著者プロフィール>
窪田新之助(くぼた・しんのすけ)。農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人RobiZyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。

<著書情報>
『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』
2015年11月に発表される「農業センサス」で明らかになる衝撃の事実! 日本の農地は急速な勢いで大規模化され、生産効率も急上昇……輸出産業となる!!
日本経済団体連合会(経団連)も2015年1月1日、発表した政策提言『「豊かで活力ある日本」の再生』で、農業と食のGDPを合わせて20兆円増やせるとした。これは12兆円の輸送用機械(自動車製造業)よりも大きく、インターネット産業や金融・保険業に肩を並べる規模──日本のGDPは500兆円なので、農業が全体の4%を占める計算になる。「コメ農家は儲けてない振りをしているだけですよ」「本気でやっている専業農家はきちんと儲かっている」など、日本中の農業の現場を取材した渾身のレポートは、我々に勇気を与える。日本の農業は基幹産業だ!
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062729208

日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活
自民党農林水産部会長の小泉進次郎氏は語る。「夜間に人工知能が搭載された収穫ロボットが働いて、朝になると収穫された農作物が積み上がっている未来がある」と──。21世紀の農業はAIやビッグデータIoT、そしてロボットを活用したハイテク産業、すなわち日本の得意分野だ。その途轍もないパワーは、地方都市を変貌させて国土全体を豊かにし、自動車産業以上のGDPを稼ぎ出し、日本人の美味しい生活を進化させる。大好評『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』に続く第2弾!
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062729796
【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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