農家の負担を減らす最新農業用ロボット【窪田新之助のスマート農業コラム】

5月9日から三日間にわたって大阪市内で開かれた西日本最大の農業総合展「関西農業ワールド2018」を取材してきた。すでに速報として注目のスマート農業ソリューションをご紹介しているが、個々の展示のより詳細な内容を、二回にわたってレポートしていく。

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人に追従するフルクローラー式の小型運搬用ロボット

初回に取り上げるのはロボットだ。

報道でトラクターやコンバインなど大型農機のロボットばかりが取り上げられる中、中山間地でも使えるロボットはないのかという声が届くようになってきた。

そんな人に紹介したいのが、中西金属工業(大阪市)と慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科が披露した、人に追従するフルクローラー式の小型運搬用ロボット「agbee(アグビー)」。このロボットは「農家の相棒」を自称するだけに、農薬の散布や土壌状態の把握といった複数の場面で活用することを狙っている。


利用者は専用のアプリケーション「hello, agbee!」で衛星利用測位システム(GPS)を使って走行経路を設定。するとアグビーはその経路に沿って自立走行するほか、人に追従することもできる。本体に装備するセンサーで、人との距離を測りながら走行できるほか、障害物があると自動的に緊急停止する。また積荷の重量を自動計測するセンサーも内蔵している。これにより収穫した畝の箇所ごとに収量がどの程度あったのかを把握できる。


畑には土壌の水分量や地温、pHなどの栽培環境に関するデータを収集するセンサーを設置する。位置情報と連携することで、畑の各地点のデータが細かに把握でき、一連のデータから収穫量も予測してくれる。すべてタブレットやスマートフォンで確認できる。このセンサーはなんとagbeeを購入すると標準で付いてくるという。


傾斜地での走行は上下は可能だが、等高線に沿っての横移動は不可能。今秋に大阪のJAで20台を試験的に使ってもらう。その結果を踏まえて改良を加え、2019年に実用化する計画だ。

車体サイズは幅480mm×奥行1140mm×高さ540mm。最大積載量は100㎏。稼働時間は8時間。バッテリー充電式。販売価格は土壌センサー5本が付いて約300万円を想定している。土壌センサーは単三電池2本で一年間稼働する。

人工筋肉が動きを補助するアシストスーツ

機械化が進まない中山間地のような小規模圃場では重い荷物を持つことも頻繁だ。その負担を軽減しようと、東京理科大学発のベンチャー企業、イノフィスが展示したのは、腰を補助するためのアシストスーツスタンドアローン」。


最大の特徴はモーターではなく、人工筋肉と呼ばれるナイロンメッシュで包んだ筒状のゴムチューブを動力としていること。本体の手元にある空気入れでこのゴムチューブに圧縮空気を送り込んで膨張させれば、人が動作するたびに非常に強い力で収縮しながら補助する。

本体は登山用のリュックに近い構造といえばいいだろうか。背負って胸と腰の位置でベルトを止める。一点違うのは、腿を支えるパッドが装備されていること。人が前後に動くたびにベルトとパッドが腿を前から、腰を後ろから支えることで、荷物を持つ負荷を減らしてくれる。


私は2017年に電動式のアシストスーツを着用したことがある。制御用コンピューターが人の動きを感知しながら、その動きを補助するように電動モーターを作動させるタイプだ。あれこれ動いてみての感想は「実用化はまだまだ先だな」ということ。人の動きと補助のタイミングがずれ、補助するどころか人の動きを邪魔するように感じた。

ただ、「スタンドアローン」を今回着用してみて「これなら農作業は楽になる」と感じた。小学校時代にぎっくり腰をやってから重量のある荷物を持つのには苦労してきたが、「スタンドアローン」を着用して重量物を持ったところ、腰への負担が軽減されたし、着用している違和感も薄かった。


複数の県と農業での活用について実証実験中だという。販売価格は70~80万円の予定だ。

<参考URL>
agbee(アグビー)|NKCイノベーションプロジェクト
スタンドアローン|株式会社イノフィス

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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