「あまおう」増産の鍵はどこにある!? 【窪田新之助のスマート農業コラム】
イチゴのブランドでは15年連続で1kg単価で全国1位を記録している福岡県産「あまおう」。
農家にとって高収益な作物であるうえ、市場からは出荷量を増やすように求められている。それなら増産したいところだが、産地の関係者に聞くと、事はそう簡単ではなかった。
2000年にそれぞれ577ha、2万2400tだったのが2016年には463ha、1万5600tとなっている。生産量が減っているのはひとえに生産する農家が減っているから。高収益な作物であるのに農家戸数が減っている要因は労働負荷が重いことにある。
土耕栽培では中腰の姿勢で、管理や収穫などをしなければならない。
そこで県が普及しているのは高設栽培。立ったままで作業がこなせるから確かに楽になる。しかし、初期投資が高い。
筑後農林事務所八女普及指導センターによれば、10a当たり500万円ほどかかるという。しかも高設栽培だと概して反収が減る。
この理由は主に二つある。一つは栽培槽を空中に設置するため、土耕と比べて培地の温度が低温になりやすいこと。もう一つは根域が制限されること。
このうち県は低温対策として、葉柄の付け根であり、生長点があるクラウンに電熱線を接触させて、植物体を局所的に温める方法も普及してきた。しかし、電熱線の設置と片づけが面倒であることから、この技術もたいして広がっていない。
結果、高設栽培の普及率は「おそらく1割程度」とのことである。しかも、筑後農林事務所八女普及指導センターによれば「頭打ちの状態」だという。生産環境での労働負荷の改善はなかなか難しいように感じた。
一方で改善できると感じたのはパック詰め。シーズンである11月から5月までの労働時間は一人当たり2200時間。このうち収穫とパックに詰める作業は全労働時間の約3割を占める。これを代行する組織ができれば、その分だけ農家は生産に勤しめる。
実際に福岡県ではJAがパッキングセンターを設け、その作業を請け負っている。しかし、すべての農家がその恩恵にあずかっているわけではない。たとえば最大の産地であるJA八女の管内では3分の1ほど。
県やJAは、新たにイチゴを作る人と一戸当たりの生産面積を増やすことで、イチゴの増産を図ろうとしている。しかし、現状であれば調製まで含めて一人でこなせる面積はせいぜい10a程度。この数字を増やすには調製を担うパッキングセンターの整備が欠かせず、喫緊の課題だ。
しかもこれは全国に共通する課題でもある。高齢化を理由に生産者が減る中で、パッキングセンターの整備ができるかどうかは、産地の生き残るうえでの分かれ目となるだろう。
農家にとって高収益な作物であるうえ、市場からは出荷量を増やすように求められている。それなら増産したいところだが、産地の関係者に聞くと、事はそう簡単ではなかった。
生産減の要因は労働負荷の高さ
福岡県でイチゴの生産面積と生産量は増えるどころか減る一方だ。2000年にそれぞれ577ha、2万2400tだったのが2016年には463ha、1万5600tとなっている。生産量が減っているのはひとえに生産する農家が減っているから。高収益な作物であるのに農家戸数が減っている要因は労働負荷が重いことにある。
土耕栽培では中腰の姿勢で、管理や収穫などをしなければならない。
高設栽培を普及するも減収がネック
そこで県が普及しているのは高設栽培。立ったままで作業がこなせるから確かに楽になる。しかし、初期投資が高い。
筑後農林事務所八女普及指導センターによれば、10a当たり500万円ほどかかるという。しかも高設栽培だと概して反収が減る。
この理由は主に二つある。一つは栽培槽を空中に設置するため、土耕と比べて培地の温度が低温になりやすいこと。もう一つは根域が制限されること。
このうち県は低温対策として、葉柄の付け根であり、生長点があるクラウンに電熱線を接触させて、植物体を局所的に温める方法も普及してきた。しかし、電熱線の設置と片づけが面倒であることから、この技術もたいして広がっていない。
結果、高設栽培の普及率は「おそらく1割程度」とのことである。しかも、筑後農林事務所八女普及指導センターによれば「頭打ちの状態」だという。生産環境での労働負荷の改善はなかなか難しいように感じた。
一方で改善できると感じたのはパック詰め。シーズンである11月から5月までの労働時間は一人当たり2200時間。このうち収穫とパックに詰める作業は全労働時間の約3割を占める。これを代行する組織ができれば、その分だけ農家は生産に勤しめる。
実際に福岡県ではJAがパッキングセンターを設け、その作業を請け負っている。しかし、すべての農家がその恩恵にあずかっているわけではない。たとえば最大の産地であるJA八女の管内では3分の1ほど。
県やJAは、新たにイチゴを作る人と一戸当たりの生産面積を増やすことで、イチゴの増産を図ろうとしている。しかし、現状であれば調製まで含めて一人でこなせる面積はせいぜい10a程度。この数字を増やすには調製を担うパッキングセンターの整備が欠かせず、喫緊の課題だ。
しかもこれは全国に共通する課題でもある。高齢化を理由に生産者が減る中で、パッキングセンターの整備ができるかどうかは、産地の生き残るうえでの分かれ目となるだろう。
【告知】
8月7日に『データ農業が日本を救う』(インターナショナル新書・集英社)(http://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-7976-8056-0)を上梓しました。
ぜひお手に取って、お読み頂ければ幸いです。
8月7日に『データ農業が日本を救う』(インターナショナル新書・集英社)(http://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-7976-8056-0)を上梓しました。
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