種子法廃止のから騒ぎ【窪田新之助のスマート農業コラム】
主食である稲と麦、大豆の種子の安定的な生産と普及を図ることを目的とした種子法。2018年に廃止されたことについて、いまだにそれを疑問視したり復活を望んだりする声がくすぶっている。
種子法廃止とその是非について、あらためて確認したい。
廃止された理由の一つは、「食糧不足の解消」という元々の役割を終えたためだ。
種子法が制定されてから60年以上が経ち、優れた種子を安定的に生産・普及する体制は全国で整った。おかげで1960年代も半ばになると、コメは余るようになる。しかも、人口の減少とともにコメ余りは加速しており、近年は年間の消費量が10万トンの勢いで減っている。
もう一つの理由は、都道府県が開発や普及をする品種が「おいしさ」を追及することに偏り、それ以外の需要に応えられていないことにある。
これは全国で普及している品種を見渡せば一目瞭然だ。1956年に誕生した「コシヒカリ」か、その血筋の品種ばかりが普及している。いずれも丸粒で短く、炊けばもっちりとした食感が特徴である。
だが、世界のコメはもっと多様だ。形状一つとっても、「コシヒカリ」のような短粒種以外に中粒種や長粒種がある。
不幸なのは消費者だ。中食や外食を中心に諸外国の料理が浸透するに従い、形状でいえば、長粒種や中粒種を食べる機会も増えた。しかし、先ほどの理由から、残念ながらそのほとんどは外国産である。
以上のような経緯から、種子法を廃止するに当たっては、民間の力を呼び込むことで、より需要に合った品種の普及を進めることがもう一つの目的としてうたわれた。
では、なぜ種子法の廃止に反対する意見が出たのか。
最も強かったのは、種子法が廃止されると、日本の種子市場にグローバル企業が参入するというものだ。グローバル企業に日本の種子産業を牛耳られ、公的機関が提供している現在よりも、農家は高額な種子を買わざるを得ない状況に追い込まれるというわけだ。
しかし、これは見当違いである。そもそも種子法は、国内外問わず民間企業の参入を規制する法律ではなく、廃止以前からそうした規制は存在しない。農水省の調べによれば、種子法廃止後もグローバル企業の参入が皆無であるということも、付け加えたい。
この結果が意味するところは、世界からみて日本の穀物関連市場は魅力がないということだろう。たとえばそれは、農業総産出額に表れている。
最盛期だった1984年に11.7兆円だったのが、2019年には約8.9兆円になった。35年で約2.8兆円減である。品目別の内訳をみると、コメが3.9兆円から1.7兆円と2.2兆円減っている。
いまだに種子法廃止に異議を唱えるよりも、なぜこうした状況になったのかを考える方が有意義ではないだろうか。
参考記事:
種子法廃止は誰のためか──日本の農作物への影響と今後の課題
https://smartagri-jp.com/agriculture/156
育成者権を尊重することによる農業・食生活への影響【種苗法改正を考える緊急連載 第2回】
https://smartagri-jp.com/agriculture/1436
種子法廃止とその是非について、あらためて確認したい。
なぜ種子法は廃止されたのか
廃止された理由の一つは、「食糧不足の解消」という元々の役割を終えたためだ。
種子法が制定されてから60年以上が経ち、優れた種子を安定的に生産・普及する体制は全国で整った。おかげで1960年代も半ばになると、コメは余るようになる。しかも、人口の減少とともにコメ余りは加速しており、近年は年間の消費量が10万トンの勢いで減っている。
もう一つの理由は、都道府県が開発や普及をする品種が「おいしさ」を追及することに偏り、それ以外の需要に応えられていないことにある。
これは全国で普及している品種を見渡せば一目瞭然だ。1956年に誕生した「コシヒカリ」か、その血筋の品種ばかりが普及している。いずれも丸粒で短く、炊けばもっちりとした食感が特徴である。
だが、世界のコメはもっと多様だ。形状一つとっても、「コシヒカリ」のような短粒種以外に中粒種や長粒種がある。
不幸なのは消費者だ。中食や外食を中心に諸外国の料理が浸透するに従い、形状でいえば、長粒種や中粒種を食べる機会も増えた。しかし、先ほどの理由から、残念ながらそのほとんどは外国産である。
以上のような経緯から、種子法を廃止するに当たっては、民間の力を呼び込むことで、より需要に合った品種の普及を進めることがもう一つの目的としてうたわれた。
世界から見た日本の穀物関連市場
では、なぜ種子法の廃止に反対する意見が出たのか。
最も強かったのは、種子法が廃止されると、日本の種子市場にグローバル企業が参入するというものだ。グローバル企業に日本の種子産業を牛耳られ、公的機関が提供している現在よりも、農家は高額な種子を買わざるを得ない状況に追い込まれるというわけだ。
しかし、これは見当違いである。そもそも種子法は、国内外問わず民間企業の参入を規制する法律ではなく、廃止以前からそうした規制は存在しない。農水省の調べによれば、種子法廃止後もグローバル企業の参入が皆無であるということも、付け加えたい。
この結果が意味するところは、世界からみて日本の穀物関連市場は魅力がないということだろう。たとえばそれは、農業総産出額に表れている。
最盛期だった1984年に11.7兆円だったのが、2019年には約8.9兆円になった。35年で約2.8兆円減である。品目別の内訳をみると、コメが3.9兆円から1.7兆円と2.2兆円減っている。
いまだに種子法廃止に異議を唱えるよりも、なぜこうした状況になったのかを考える方が有意義ではないだろうか。
参考記事:
種子法廃止は誰のためか──日本の農作物への影響と今後の課題
https://smartagri-jp.com/agriculture/156
育成者権を尊重することによる農業・食生活への影響【種苗法改正を考える緊急連載 第2回】
https://smartagri-jp.com/agriculture/1436
【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
- 現状の輸出統計に意味はあるのか【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 秋田県がスマート農業で実現する、コメから小菊への転換と生産規模拡大(後編)
- 秋田県がスマート農業で実現する、コメから小菊への転換と生産規模拡大(前編)
- 経済事業の立て直しに迫られるJA【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 種子法廃止のから騒ぎ【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 「科学者の心」を持って自ら考えてほしい 〜遺伝子組み換え技術の議論【窪田新之助のスマート農業コラム】
- データ栽培管理により反収増を実現したゆめファームの今年の成果【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 日本の食料基地・北海道が直面する物流問題の憂うつ【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 従業員の定着を図る「作業分解」という考え方【窪田新之助のスマート農業コラム】
- パレットを返却しない青果物流通の常識を変えよう【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 青果物流の改善にパレットとフレコンの普及を【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 麦わらのストローで脱プラ。農家らがプロジェクトを始動【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 資本主義の変容とこれからの農業 【窪田新之助のスマート農業コラム】
- キュウリの反収アップに連なる「土は根を生やす培地」という考え
- 年収1000万円を捨てた脱サラ農家の夢
- 集落営農法人は「3階建て方式」の時代へ
- バリューチェーン構築のためのデータ利用を【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 収量を高める根の力 【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 10aの収入試算が18万円となった「みのりのちから」
- 「あまおう」増産の鍵はどこにある!? 【窪田新之助のスマート農業コラム】
- キュウリ農家によるAI自動選別機の最新版【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 1万5000俵のコメを評価する「頭脳」【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 農業ベンチャーによる生産管理と物流制御を可能にしたシステムとは?〜農業総合研究所【中編】
- 国内最大の事業協同組合が求めた小麦「みのりのちから」の魅力と可能性
- トラクターと作業機のデータ連携により、相関関係が見える農業の実現へ
- 小麦の品質評価基準はなぜ変わるのか
- あらためて問う、鳥獣害対策
- 東京で生産量日本一の農産物? 新宿で広がる「内藤とうがらし」
- 「減反政策は終わった」という暴論
- 農作物の体調を“リアルタイム”で診断する新技術とは?
- 農業に転用したい自動運転技術「LiDAR」とは?【窪田新之助の農業コラム】
- 米穀店も稲作経営を始める時代【窪田新之助の農業コラム】
- 醸造用ブドウの品質向上にスマート農業を活かす「信州ワインバレー構想」〜長野県高山村の例
- 「Kintone」による地域運営 ──島根県益田市【窪田新之助のスマート農業コラム】
- 農家目線で開発された開水路用の自動給水機の現地実証 〜横田農場の例
- センサーの向こうにある野菜の本質とは何か──NKアグリの例<後編>
- ニンジンの機能性はいつ高まるのか? ──NKアグリの例<前編>
- 農家の負担を減らす最新農業用ロボット【窪田新之助のスマート農業コラム】
- スマート農業の先にあるもの【窪田新之助のスマート農業コラム】
- いまなぜスマート農業なのか【窪田新之助のスマート農業コラム】
SHARE