バリューチェーン構築のためのデータ利用を【窪田新之助のスマート農業コラム】
このほど集英社インターナショナルから『データ農業が日本を救う』(インターナショナル新書)を上梓した。
デジタル化の流れの中、農業におけるデータの利用に向けた技術の開発や普及の現状、それを阻む諸問題について品目を問わず扱ったつもりだ。
本稿ではその概要とともに、農業でのデータ利用の方向性について伝えたい。
データは「21世紀の石油」といわれている。この言葉に従えば、農業ではこの3つのデータこそが富の源泉になる。
1つ目の環境のデータというのは雨量や風速、風向、温度、湿度など植物を取りまく環境に関すること。場合によっては作物以外の微生物の働きを入れることもある。
2つ目の管理のデータというのは、人が営農する行為に関すること。種子や農薬、肥料をまいた時期やその量、農機をどの農地でどのくらいの時間をかけて稼働させたのかなどが該当する。
3つ目の生体のデータというのは作物の生育状態に関すること。葉の面積や数、茎の長さや太さなど外観に関することだけではなく、果実の糖度や酸度など人が見てもわからないことまでも含む。
こうしたデータがどう利用されているかは本メディアの読者であれば、すでに十分にご承知のことだろう。ただし、農業でのデータの利用はおおむね生産現場にとどまっている。ここに農業とともにデータ利用が抱える課題がある。
というのも農業は大きく見れば食産業の中の一つの分野だ。食を基軸として農林水産物の生産から製造と加工、流通、販売まで付加価値の連鎖を構築したビジネスシステムを「フード・バリュー・チェーン」と呼ぶ。
このフード・バリュー・チェーンの構築こそ、いまもって日本の農業に欠けている視点であり、それがこの産業が衰退してきた一つの要因なのだ。
現状を数字で見てみよう。食料関連産業の国内生産額は99兆円であり、このうち農業が占めているのは9兆円に過ぎない。
食品は川上から川下に流れる中、つまり生産から製造と加工、流通、販売されたりすることで10倍以上にその儲けを増やしているのに、農業はその利益の1割しか手にできていないのだ。
いずれの国においても商品の市場価値が下がって一般的な商品となると、つまりコモディティ化すると、利益の源泉は農業から離れていくのが常である。それでも儲かる農業を形づくるのであれば、販売や加工などサプライ・チェーン全体の中で利益の源泉がどこにあるかを探しながら、ステークホルダー(利害関係者)との間で新たな関係を結び、ビジネスを創造していくことが欠かせなくなる。
フード・バリュー・チェーンの構築で先駆的なオランダに長年在住し、現地の農業を見つめてきたある日本人と以前話した際、印象的だったのは「オランダには農業はなく食産業がある」と述べていたことだ。まさにオランダの農業が成長してきた過程と日本の取るべき方向を端的に示した言葉であると考える。
その食産業は2030年には世界で1360兆円にまで成長する。これは2015年と比べて1.5倍の規模だ。この巨大市場にどう参画できるかが日本の農業には問われている。
そうであれば、農業におけるデータ利用はそこにとどまるのではなく、食産業の中で考えていかなければいけない。そうした発想に立った取り組みは、サンファーム中山とHAPPY QUARITYの高糖度トマトの実例などをすでに紹介している。
今後もこうした取り組みを取材し、紹介していきたい。
デジタル化の流れの中、農業におけるデータの利用に向けた技術の開発や普及の現状、それを阻む諸問題について品目を問わず扱ったつもりだ。
本稿ではその概要とともに、農業でのデータ利用の方向性について伝えたい。
集めたデータを活用しきれていない日本
農業のデータの種類については、本メディアでも東京大学大学院農学生命科学研究科の二宮正士特任教授(名誉教授)のインタビューで紹介している。その3つとは環境と管理、そして生体に関するデータのことだ。データは「21世紀の石油」といわれている。この言葉に従えば、農業ではこの3つのデータこそが富の源泉になる。
1つ目の環境のデータというのは雨量や風速、風向、温度、湿度など植物を取りまく環境に関すること。場合によっては作物以外の微生物の働きを入れることもある。
2つ目の管理のデータというのは、人が営農する行為に関すること。種子や農薬、肥料をまいた時期やその量、農機をどの農地でどのくらいの時間をかけて稼働させたのかなどが該当する。
3つ目の生体のデータというのは作物の生育状態に関すること。葉の面積や数、茎の長さや太さなど外観に関することだけではなく、果実の糖度や酸度など人が見てもわからないことまでも含む。
こうしたデータがどう利用されているかは本メディアの読者であれば、すでに十分にご承知のことだろう。ただし、農業でのデータの利用はおおむね生産現場にとどまっている。ここに農業とともにデータ利用が抱える課題がある。
というのも農業は大きく見れば食産業の中の一つの分野だ。食を基軸として農林水産物の生産から製造と加工、流通、販売まで付加価値の連鎖を構築したビジネスシステムを「フード・バリュー・チェーン」と呼ぶ。
このフード・バリュー・チェーンの構築こそ、いまもって日本の農業に欠けている視点であり、それがこの産業が衰退してきた一つの要因なのだ。
農業を「食産業」としてとらえる
現状を数字で見てみよう。食料関連産業の国内生産額は99兆円であり、このうち農業が占めているのは9兆円に過ぎない。
食品は川上から川下に流れる中、つまり生産から製造と加工、流通、販売されたりすることで10倍以上にその儲けを増やしているのに、農業はその利益の1割しか手にできていないのだ。
いずれの国においても商品の市場価値が下がって一般的な商品となると、つまりコモディティ化すると、利益の源泉は農業から離れていくのが常である。それでも儲かる農業を形づくるのであれば、販売や加工などサプライ・チェーン全体の中で利益の源泉がどこにあるかを探しながら、ステークホルダー(利害関係者)との間で新たな関係を結び、ビジネスを創造していくことが欠かせなくなる。
フード・バリュー・チェーンの構築で先駆的なオランダに長年在住し、現地の農業を見つめてきたある日本人と以前話した際、印象的だったのは「オランダには農業はなく食産業がある」と述べていたことだ。まさにオランダの農業が成長してきた過程と日本の取るべき方向を端的に示した言葉であると考える。
その食産業は2030年には世界で1360兆円にまで成長する。これは2015年と比べて1.5倍の規模だ。この巨大市場にどう参画できるかが日本の農業には問われている。
そうであれば、農業におけるデータ利用はそこにとどまるのではなく、食産業の中で考えていかなければいけない。そうした発想に立った取り組みは、サンファーム中山とHAPPY QUARITYの高糖度トマトの実例などをすでに紹介している。
今後もこうした取り組みを取材し、紹介していきたい。
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