データ栽培管理により反収増を実現したゆめファームの今年の成果【窪田新之助のスマート農業コラム】

JA全農施設園芸で高収量を実証する圃場として設けた「ゆめファーム」が目覚ましい成果を挙げた。施設園芸の主要品目であるキュウリとトマト、ナスで全国最多、あるいはそれに近い反収を挙げることに成功した。

3品目のうち、キュウリの実績については以前紹介した通りだ。

参考記事:JA全農が佐賀県でキュウリの反収55tを上げられたノウハウとは
https://smartagri-jp.com/smartagri/2391

すなわち、10a当たりの収量は養液栽培と土耕栽培ともに55t程度を達成した。一方、トマトでは40t、ナスでは35tという成績である。



増収を目的とした栽培方法を導入


高い反収を挙げることができた理由はいくつかある。ナスについては、珍しい「つるおろし栽培」を導入した。面倒な剪定作業で春先の作業が遅れると、過繁茂で高湿になり、病気が発生して減収につながる。つるおろし栽培にすることで病気の発生が減った。

同じく増収を目的として、トマトの強勢台木を取り入れた。

「ナスの台木にはナスを使うのは当たり前。主な目的は病気を防ぐため。でも、今回はロックウールを使った養液栽培をしているので、土壌病害の心配がなく、ナスの台木を使わなくても良かった」(JA全農)。

ロックウールの断面を見ると、ナスの台木よりトマトの台木のほうが根の量が多かった。


世界に匹敵する反収アップはデータによる栽培管理にある


JA全農によれば、「ゆめファーム」の管理責任者は「それぞれの栽培ではほぼ初心者」。それでも国内最多とみられる反収を挙げた理由として、「優れた生産者の指導を受けた」ことを前置きにして、

  1. 環境(日照や風など)
  2. 最適な施設・資材
  3. データを踏まえた栽培管理

という3つの条件を挙げる。

このうち本稿で注目したいのは3について。JA全農は生体と環境、管理のデータについて毎週欠かさず取り続けて、報告書にまとめていった。理由は作物の現状を評価することなしに、適切な栽培管理もないからだ。もし作物が変化していれば、その原因をつかむためにも過去のデータは必要だ。このように仮説と検証を繰り返すことで、栽培技術を向上させることができたという。

JA全農は一連の成果を踏まえて、生産現場への普及に入る。栃木、高知、佐賀にある「ゆめファーム」の3農場は今後、普及拠点となる研修施設とする。今回の研究成果を踏まえた温室とロックウール養液栽培、さらには遠隔地からの営農指導体制なども合わせて、「ゆめファーム全農パッケージ」として提案していく。

海外の先進国と比べ、反収という面では決して芳しくない日本の施設園芸。「ゆめファーム全農パッケージ」はその状況を大きく変えるだけの潜在力を持っている。


ゆめファーム全農SAGA/大規模多収技術の確立と普及目指す|JAさが 自己改革の取り組み |自己改革|JAさが 佐賀県農業協同組合
https://jasaga.or.jp/kaikaku/archives/235

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  2. 槇 紗加
    槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  3. 沖貴雄
    沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  4. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  5. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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