スマート農業の先にあるもの【窪田新之助のスマート農業コラム】

今回はスマート農業スマートアグリ)の先にあるものを見通してみたい。

農林水産省によれば、スマート農業とは「ロボット技術ICTを活用して、超省力・高品質生産を実現する新たな農業」である。その近未来像は前回のコラムで少し紹介した通り、農業の生産現場における変革だ。農業労働人口が急激に減る中、一部の仕事において人に代わるロボットやAI、IoTが生産性の維持と向上を図る世界の実現である。

では、その先に何が待っているのか。あるいは何を実現していくべきなのか。私は少なくとも第一ステップであるスマート農業の先に、二つのステップがあると考えている。


第二のステップは農業の情報化によるフード・バリュー・チェーンの構築だ。フード・バリュー・チェーンとは農業生産から製造、加工、流通に至るまでの付加価値をつなぐ連鎖をつくること。その連鎖をつくるうえで、農業生産の現場でも情報化を進めることが欠かせない。

たとえば茨城県つくば市の「農業法人HATAKEカンパニー」は、主力のベビーリーフ(野菜の幼葉)の収穫を予測する試みを始めている。収穫量を予測するのに使うのはMicrosoft Excel。従業員が畑ごとに発芽率と生育率の二つのデータを毎日入力する。結果、畑ごとの収穫量をざっとつかめる。もし収穫量が不足することが予測できれば、別の産地から調達するなど事前に対応できる。

収穫の適期を予測するのに使うのは、畑に設置して地温を計測するセンサー。地温の積算を特殊な計算処理にかけ、その値が一定の値に届いたら、収穫の適期を迎えることを突き止めた。

これには規模拡大への備えという目的もある。今のところベビーリーフの需要は尽きない。そこで同社は全国に農場を展開し、120haまで増やした。これから進出する先で事前に地温を調べておけば、そのデータをこの計算処理に入れれば生産計画を立てられる。結果、迅速なスタートが切れる。第二のステップは経営システムの変革といえる。

第三ステップは情報化による融合産業化だ。融合産業化とは農業が医療や介護、観光など他産業と手を取り合うことである。

たとえば宮城県東松島市の「農業法人アグリードなるせ」は、地域の中核組織として、農業だけではなく医療や介護、教育といった分野も手掛けている。その一環で医療機関を誘致した。今後はITを活用して機能性野菜を生産し、その機能性を求める患者に提供することを検討している。社会システムの変革である。

情報化により農業がこれまでの殻を打ち破り、どれだけ進化するのか。その萌芽となる実例は別にまた紹介していきたい。

<著者プロフィール>
窪田新之助(くぼた・しんのすけ)。農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人RobiZyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。

<著書情報>
『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』
2015年11月に発表される「農業センサス」で明らかになる衝撃の事実! 日本の農地は急速な勢いで大規模化され、生産効率も急上昇……輸出産業となる!!
日本経済団体連合会(経団連)も2015年1月1日、発表した政策提言『「豊かで活力ある日本」の再生』で、農業と食のGDPを合わせて20兆円増やせるとした。これは12兆円の輸送用機械(自動車製造業)よりも大きく、インターネット産業や金融・保険業に肩を並べる規模──日本のGDPは500兆円なので、農業が全体の4%を占める計算になる。「コメ農家は儲けてない振りをしているだけですよ」「本気でやっている専業農家はきちんと儲かっている」など、日本中の農業の現場を取材した渾身のレポートは、我々に勇気を与える。日本の農業は基幹産業だ!
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062729208

日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活
自民党農林水産部会長の小泉進次郎氏は語る。「夜間に人工知能が搭載された収穫ロボットが働いて、朝になると収穫された農作物が積み上がっている未来がある」と──。21世紀の農業はAIやビッグデータやIoT、そしてロボットを活用したハイテク産業、すなわち日本の得意分野だ。その途轍もないパワーは、地方都市を変貌させて国土全体を豊かにし、自動車産業以上のGDPを稼ぎ出し、日本人の美味しい生活を進化させる。大好評『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』に続く第2弾!
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062729796

<関連リンク>
いまなぜスマート農業なのか【窪田新之助のスマート農業コラム】
https://smartagri-jp.com/smartagri/31
【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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