年収1000万円を捨てた脱サラ農家の夢

稲作農家になるため、家族とともに5年前に北海道鷹栖町に移住した平林悠さん(39)は、筆者の大学の同級生。研修先から独立して11haで稲作を始め、2年目の2020年は年商2650万円を達成した。

「農業は稼げる」と言い切るまでになった彼の次なる夢を紹介したい。先に答えを言うと「村づくり」だ。



自分で作ったものを、必要とする人に届けたい


平林さんと妻の純子さん(35)はもともと製薬会社に勤めていた。平林さんの年収は1000万円。それを捨ててまで農家になった理由の一つは「自分でものを作り、必要とする人に届けたかったから」。製薬会社の営業職だった平林さんには薬を作ることはできなかった。食べることが好きだったことや「ゆめぴりか」にほれ込んだこともあり、北海道で農業をする決意をした。

もとより生産したコメは自分たちで売るつもりだった。前職で優れた営業担当だった平林さんは、退職する前にそれまで公私で付き合いのあった人たちに営業をかけ、いずれ生産するコメを買ってくれる500人の顧客を獲得。実際に稲作を始めるとそのほとんどの人が購入してくれたほか、彼ら彼女らが新しい買い手を紹介してくれた。いまでは顧客の数は1000人を超える。

平林さんと付き合い、またその商品を購入してみて気づくのは、気遣いにあふれていることだ。例えば商品には心のこもった手紙が入っている。贈答用の場合は平林さんと送り主との関係に触れる。

平林さんの趣味は釣り。釣果は干物にして、ときに商品を購入してくれた返礼品として同封する。ときに純子さん手製の味噌に代わる。そうした加工品をつくる様子はSNSで頻繁に発信しているので、商品を通じて平林家に親近感がわいてしまう。固定客が増えるのも納得だ。

多くの人と幸せになりたい。平林さんの次の夢


早くも経営が安定してきた平林さんの次なる夢は「村づくり」。メディアなどで彼のことを知った人から鷹栖町で農業をしたい、仕事をしたいという相談が絶えない。実際に移住と就農が決まっている人も出ている。彼ら彼女らはブドウを栽培してワインを醸造したり、農家向けの税務業務をしたりすることを計画している。平林さんはこうした人たちと連携しながら、鷹栖町産の農産物を広く売っていくことを思案している。

もちろんコメもその一つ。そのため近いうちに施設を整え、集荷業を始める予定だ。

「自分と関わってくれる人たちと幸せになりたい」。そう願う平林さんが2月9日、農林水産省の補助事業「米マッチングフェア2020」で講演する。コロナ禍でオンラインでの開催となるので、遠方の方もぜひ視聴してもらいたい。これからの時代の農業経営の可能性を知ることができるはずだ。
※セミナー、商談会の申し込みは2月6日で終了しています。詳細は主催者にお問い合わせください。


米マッチングフェア2020
https://kome-matching.com/202002-form-sanka/
【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
パックごはん定期便