従業員の定着を図る「作業分解」という考え方【窪田新之助のスマート農業コラム】

農業法人にとって、従業員の確保と定着は大きな課題だ。その一つの解決法として株式会社カワカミ蓮根(熊本市)が導入したのは、「作業を分解する」という考え方だ。

同社は熊本市と玉名市にある44haの田でレンコンを作っている。玉名市には収穫物を一元的に調製や予冷して、配送の手配までする施設「センター」を2021年から稼働させている。

参考記事:グローバルGAPの取得は農業経営をどう変えたのか
https://smartagri-jp.com/management/3575

“働ける人”を限定しないための作業の分解

この施設を訪れると、壁の各所にマニュアルが貼ってある。そのうちの1枚に10月のカレンダーがある。これには、今回主題にしたい“分解された作業の中身”が載っていた。センターで1日に行う作業は大きく8つに分解できる。カレンダーにはその分解された作業の名前と、それぞれの作業を担当する人の名前とその出欠勤の予定が記されていた。

作業分解の考えから生まれた月別の担当表
作業の名前は「パレ」「分解」「箱」「はつり」など。たとえば「パレ」とはパレットにレンコンを梱包した箱を載せて、配送の手配をすること。「分解」は数珠つなぎになったレンコンを節ごとに裁断することである。

以前であれば一連の作業は、分解されることなく、すべての従業員がこなすことが基本だった。つまり、朝から夕方まで丸一日仕事をしなければならない。育児や家事がある主婦であれば、そもそも働けないので求人には応募しないだろう。女性が従業員になっても、妊娠したり出産したりすれば、職場を離れなければならない。これでは雇える女性も限られてしまう。


作業を分解することで“誰もができる農業”に

そこで出てきたのが、作業を分解して、作業ごとに担当者を決めるという考え方である。これで、その人の生活上の都合だけではなく、職能に合わせた働き方ができるというわけだ。社長の川上大介さんはその思いをこう語る。

「当初は従業員をオールラウンダーにしたかったわけです。ただ、それでは定着しないし、農業が産業として認められない。僕の思いは、農業を産業として認めてもらうことなんです。そのためには、誰もができる農業にしなければいけない」

作業を分解するまでは、一部の従業員の間で作業が重なっていることがあったという。加えて、新入社員の教育がおろそかになり、人によって成長の速さに差が出ていた。結果、不満が高まって会話がなくなり、離職してしまう事態につながっていた。

それが作業を分解して適材適所を図り、さらに成長段階と人事評価を明確にした。それが奏功して、「定着率は目に見えて上がりましたね」と川上さん。もちろんそれには、前回紹介したグローバルGAPの考え方に基づく作業の安全を進めていることも奏功している。

日本、とりわけ地方で人口の減少が止まらない中、従業員の確保と定着はこれからますます重要な課題となってくる。カワカミ蓮根は一つの解決法とともに、柔軟な思考でこの課題に対処することの大切さを教えてくれている。


天然地下水栽培 おいしいレンコン ㈱カワカミ|熊本
https://www.renkonkawakami.com/

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。