資本主義の変容とこれからの農業 【窪田新之助のスマート農業コラム】
大分県宇佐市安心院町で6次産業化に取り組んでいるドリームファーマーズJAPAN(以下、ドリーム社)。
コロナ禍における同社の試みから資本主義の変容をつかみ、これからの農業のヒントを得たい。
代表取締役社長の宮田宗武氏(左)と、代表取締役副社長の安部元昭氏(右)
共同代表の2人は共にブドウを大規模に生産する農家だ。自分たちの経営とは別に、ドリーム社でも観光農園や直売所、喫茶店を併設しながら運営。収穫物はドライフルーツやジュースに加工し、卸売や直売もしている。
観光農園には収穫時期にもなれば、大型バスで年間400台を超えるツアー客が来ていた。それが一転したのは新型コロナウイルスの感染拡大。2020年はツアー客がほぼ皆無になった。ところが同年の収穫時期の売り上げは前年比120%と増えたのである。
売り上げが増えた要因は、商品やサービスをツアー客向けから個人客向けに切り替えたことにある。以前は「モノ売りだった」(同社)。滞在時間が限られているツアー客には大型バスが到着すると同時にブドウや加工品をどれだけ売れるかが勝負どころだった。
一方、個人客向けに売ったのは「体験」だ。その中身は園地で1房をもいでもらうほか、土産用に1房とタオル、飲料、パンフレットなどを付ける。参加費は1980円(税込)。
ブドウ狩り以外にも楽しんでもらえる工夫も凝らした。園地の入り口に浮標(ブイ)を材料にブドウに模した造形物を飾ったり、目の前にあるワイナリーのブドウ園を眺められる場所に椅子を置いたりした。客はそこで写真を撮るなど、思い思いの時間を過ごしたという。
滞在時間が長い個人客はツアー客と比べて客単価が高い。また彼ら彼女らがSNSで体験の様子を発信したことで、さらなる客を引き寄せた。こうして増収につながっていったらしい。
この試みは資本主義の変容を示している。つまり、「有形資産から無形資産への価値の転換」だ。
資本主義の主役は「物質的なもの」よりも「非物質的なもの」に移り変わってきた。「非物質的なもの」とは、例えば知的財産権やブランド、ソフトウェア、組織などである。
先進国では無形資産への投資を増やしている。それは有形資産と無形資産の対GDP比の推移をみれば明確だ。対して日本では非物質分野への投資が盛んでないことが証明されている。それはさておき、農業でも無形資産にどれだけ投資できるかがこれから重要になってくるのではないか。
本メディアが伝えるスマート農業に関する多くの取り組みも、そうした流れのなかでとらえると学ぶことが多いのではないだろうか。ドリーム社の試みはそんなことを考えるきっかけになり、ありがたかった。
ぶどう・ドライフルーツのドリームファーマーズJAPAN
https://www.dreamfarmers.jp/
コロナ禍における同社の試みから資本主義の変容をつかみ、これからの農業のヒントを得たい。
代表取締役社長の宮田宗武氏(左)と、代表取締役副社長の安部元昭氏(右)
コロナ禍で切り替えたサービスの形
共同代表の2人は共にブドウを大規模に生産する農家だ。自分たちの経営とは別に、ドリーム社でも観光農園や直売所、喫茶店を併設しながら運営。収穫物はドライフルーツやジュースに加工し、卸売や直売もしている。
観光農園には収穫時期にもなれば、大型バスで年間400台を超えるツアー客が来ていた。それが一転したのは新型コロナウイルスの感染拡大。2020年はツアー客がほぼ皆無になった。ところが同年の収穫時期の売り上げは前年比120%と増えたのである。
売り上げが増えた要因は、商品やサービスをツアー客向けから個人客向けに切り替えたことにある。以前は「モノ売りだった」(同社)。滞在時間が限られているツアー客には大型バスが到着すると同時にブドウや加工品をどれだけ売れるかが勝負どころだった。
一方、個人客向けに売ったのは「体験」だ。その中身は園地で1房をもいでもらうほか、土産用に1房とタオル、飲料、パンフレットなどを付ける。参加費は1980円(税込)。
ブドウ狩り以外にも楽しんでもらえる工夫も凝らした。園地の入り口に浮標(ブイ)を材料にブドウに模した造形物を飾ったり、目の前にあるワイナリーのブドウ園を眺められる場所に椅子を置いたりした。客はそこで写真を撮るなど、思い思いの時間を過ごしたという。
滞在時間が長い個人客はツアー客と比べて客単価が高い。また彼ら彼女らがSNSで体験の様子を発信したことで、さらなる客を引き寄せた。こうして増収につながっていったらしい。
この試みは資本主義の変容を示している。つまり、「有形資産から無形資産への価値の転換」だ。
資本主義の主役は「物質的なもの」よりも「非物質的なもの」に移り変わってきた。「非物質的なもの」とは、例えば知的財産権やブランド、ソフトウェア、組織などである。
先進国では無形資産への投資を増やしている。それは有形資産と無形資産の対GDP比の推移をみれば明確だ。対して日本では非物質分野への投資が盛んでないことが証明されている。それはさておき、農業でも無形資産にどれだけ投資できるかがこれから重要になってくるのではないか。
本メディアが伝えるスマート農業に関する多くの取り組みも、そうした流れのなかでとらえると学ぶことが多いのではないだろうか。ドリーム社の試みはそんなことを考えるきっかけになり、ありがたかった。
ぶどう・ドライフルーツのドリームファーマーズJAPAN
https://www.dreamfarmers.jp/
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