「Kintone」による地域運営 ──島根県益田市【窪田新之助のスマート農業コラム】

財政難や人口減少で地方自治体に以前のような公共サービスを期待できなくなりつつある中、住民主体の地域運営をどう築いていけばいいのか。

日本創成会議で消滅可能性都市に指定された島根県益田市では、市と一般社団法人小さな拠点ネットワーク研究所が、株式会社サイボウズのクラウドサービス「Kintone(キントーン)」で課題解決のアプリケーションを作り、地区を超えて住民の間で共有する試みが始まっている。

放置作物を保育所に提供して収入増

益田市真砂地区ではこれまで、高齢者が自家用に栽培している農産物は、豊作になれば人にあげるか畑で放置していた。それを高齢者の現金収入に換えようと、児童の給食の食材として保育所に供給することにした。

ただ、問題となったのは、いつ、何が、どれだけ出荷するかが不透明だったこと。これでは保育所が安心して使えない。

この課題解決に登場したのが株式会社サイボウズの「Kintone」だ。利用者が簡単かつ自由にアプリケーションを作れるのが特徴のこのクラウドサービスで、出荷計画を立てることにした。


高齢者と保育園の関係者が定期的に会合を開いて、高齢者から作る農産物の品目と量を聞き取る。以後は定期的に収穫日の見込みをクラウド上で情報共有し、保育所はそれらを基に献立を作っていく。

いまでは多数の農家が200種類の農産物を出荷し、彼ら、彼女らの生きがいづくりにもなっている。保育所にとっても地場の新鮮な野菜が入手できているのは嬉しい。

ポイントは農産物の供給先として、小学校ではなく保育所を選んだこと。小学校の場合、量が多いので野菜の皮むきは機械作業となり、規格の統一が求められる。対して保育所なら、調理はすべて手仕事なので、規格は問わない。

野生動物対策として目撃情報を共有

同じく益田市の二条地区では住民と行政、猟友会などが連携し、田畑を荒らす野生動物対策で「Kintone」を活用している。


住民からいつ、どこで、なにを、どのくらい目撃したかの情報を収集。その情報はGIS(地理情報システム)と連動させた「Kintone」に取り込む。結果、猿なら猿、イノシシならイノシシが地図上でどう移動しているかがおおまかに把握できる。もし自分の集落に近づいているなら、関係者間でその情報を共有し、追い払いのために迎え撃つことができる。

作成したアプリは他地区でも活用可能

一連の取り組みが面白いのは、課題解決の方法がアプリという形で蓄積されることだ。後から同じ課題に取り組みたい地区は、前例のアプリを自分たちの地区の実情に合わせて改良すればいい。

地域の悩みは似ているところがある。「Kintone」は同じ悩みを抱えている地域に学びの輪を広げてくれる。

益田市は「Kintone」を使ってほかにも色々な取り組みをしている。詳細は以下に掲載している。

<参考URL>
島根県益田市ホームページ
益田市の中山間地域におけるICTを活用した持続可能な地域運営のモデル構築の実証実験 成果報告会(PDF)

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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