現状の輸出統計に意味はあるのか【窪田新之助のスマート農業コラム】

人口減少を要因として国内の食品市場がしぼみ続ける日本にとって、農業成長の活路を輸出に求めるという方向は間違っていない。

農政に資する調査や研究を行う農林水産政策研究所が2019年3月に公表した「世界の飲食料市場規模の推計」によれば、国内における飲食料の市場規模は人口減と高齢化の進展で「減少する見込み」だ。国内の食料支出の総額は2010年を100とすると2030年には97になると予測している。

一方で世界を見渡すと、人口の増加と食生活の変化により、食料の需要は「増加する見込み」である。

まず、世界の人口は2010年に69億人だった。ところが国連の推計では、2030年には85億人と、1.2倍以上に増える。

農林水産政策研究所による先の推計によれば、飲食料の市場規模も、2015年に890兆円だったのが、2030年には1360兆円と、1.5倍になると予測されている。

世界の飲食料市場規模(2015年→2030年)

世界の飲食料市場規模は2030年に1360兆円と約1.5倍に成長が見込まれている。出典:農林水産政策研究所(https://www.maff.go.jp/primaff/seika/pickup/2019/19_01.html
地域別にみると、著しい成長が見込まれるのは1人当たりGDPの伸びが大きいアジアで、同期間中に420兆円から800兆円と1.9倍に拡大する。そんな海外市場に食い込むことができれば、国内農業を成長させることも夢ではないのかもしれない。

たしかに輸出は、食糧安全保障の観点からも重要である。輸出により販路を確保できれば、非常時に国民を食べさせるだけの農地を維持しやすくなる。

だから、輸出の意義を否定はしない。

だが、農水省による輸出拡大策は実態が伴っていない。そう言い切るのは次のような事情があるからだ。

同省は2022年2月、2021年の農林水産物・食品の輸出額が、かねてからの目標である1兆円を突破したと発表した。具体的には前年比25.6%増の1兆2385億円に達したという。

ところが、その実態をつぶさにみると、「これが日本の農林水産物・食品なのか」と言いたくなるような品目が並ぶ。チョコレートやココア、コーヒーなどだ。輸出額の4割を占めるのが、こうした加工食品。その多くは原料が輸入品である。これで、どうして、輸出が拡大しているということで素直に喜べるだろうか。

2021年の輸出実績では農産物が約7割。そのうち加工食品が半数以上を占めている。出典:2021年農林水産物・食品の輸出実績(品目別)(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_info/attach/pdf/zisseki-21.pdf
農水省は次なる目標として、2025年までに2兆円、2030年までに5兆円という数字を掲げる。ただし、先のような統計がなされている限り、これらの金額目標に意味があるのかどうか、はななだ疑問である。

※ ※ ※

12月20日発売の拙著『誰が農業を殺すのか』(新潮新書)では、輸出だけではなく、種苗法種子法スマート農業、園芸振興などをめぐる「農政の大罪」を追及した。よろしければ、お手に取ってみてもらいたい。


書籍「誰が農業を殺すのか」紹介記事
https://smartagri-jp.com/news/5784

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
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    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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