ニンジンの機能性はいつ高まるのか? ──NKアグリの例<前編>【窪田新之助のスマート農業コラム】

ノーリツ鋼機株式会社の社内ベンチャーとして2009年に設立した農業法人NKアグリ株式会社(和歌山市)。同社が全国の農家と契約栽培するニンジンのブランド「こいくれない」は、外観の赤色の強さが特徴だ。赤色が濃いのは、通常のニンジンにほとんど含まれない機能成分のリコピンを多く含んでいるため。リコピンといえば抗酸化作用が強く、動脈硬化や糖尿病の予防でその効能が期待されている。


機能性を持っているだけではなく、甘味が濃いのもウリである。私も「こいくれない」の料理をさまざま食べてみたが、とくに付け合わせのグラッセにするとそれが引き立つように感じた。

これから二回にわたって、NKアグリによるこのニンジンのブランド化の取り組みを紹介する。第一回はスマート農業という観点から、このニンジンの作り方と全国展開について、第二回は流通改革という観点から「こいくれない」が持つ意味について見ていきたい。農業の情報化の先には、生産性の向上だけではなく、経営の変革が待っていることを理解してもらえるはずだ。

市販のセンサーやクラウドシステムで収穫量を予測

「こいくれない」がリコピンを多く含むのは、使っている品種「京くれない」の特性に由来する。タキイ種苗が開発したこの品種は、リコピンを平均して100g当たり8.92mg含む。ただ、生育期間中でその含有量に違いが出てくる。では、最も多くのリコピンを含むのはいつなのか。価値を高めて売るにはそれを知らなければならない。そのために使っているのが「おんどとり」という市販のセンサーだ。


センサーで計測するのは気温。1時間ごとに収集するそのデータは、グループウェアの開発会社「サイボウズ」のクラウドシステム「Kintone(キントーン)」に集約。NKアグリが独自に開発した計算処理によって、積算した温度から収穫の適期、つまりリコピンの含有量が高いと思われる時期を割り出している。



契約農家には畑に「おんどとり」を設置してもらい、各自のスマートフォンで積算温度の推移と収穫の予測日を確認できるようにしている。

収穫量もすべての畑で予測している。見ているのは、ニンジンの発芽率と肥大の度合い。契約農家の畑で無作為に抜き取りをして、収穫量をざっと見積もる。一連の情報は取引先と共有する。事前に不足することが予測できれば、事前の策を講じられるというわけだ。

全国の農家との契約により出荷期間は半年に及ぶ

契約農家の収穫物は全量買い取り。このうちリコピンを一定量以上含んだものだけに「こいくれない」の名前を付けて販売する。機能性の成分量が基準を満たしているかを外観だけで簡単に判別できるカラーチャートもつくり、抜き取り検査もしている。

農家にとっては事前に売り先と販売価格が決められることから、栽培の契約先は北海道から鹿児島まで7道県で50戸(2017年実績)にまで広がった。南北の幅広い地域に契約農家をつくることで、出荷期間は半年にわたっている。契約面積は2017年に36ヘクタール、今年は50ヘクタールを見込んでいる。

販売先は全国65社の量販店。2017年からはイオンにも出荷する。加えて同社の農業法人イオンアグリ創造株式会社も、同年から「こいくれない」の生産に着手。まずは牛久市にある畑で試作した。
(※初出時、自治体名を誤っておりました。お詫びして訂正いたします。)

センサーで収集する温度のデータを独自の計算処理にかけることで誕生したブランド「こいくれない」。ただ、代表取締役社長の三原洋一氏は「センサーは本質ではない」という。では、この取り組みの本質はどこにあるのか。

ここまで言わなかったが、「こいくれない」には明らかな欠点がある。ニンジンの形状が曲がりやすいのだ。曲がったニンジンは既存の流通なら規格外である。従来であれば見向きもされないとされてきた品だ。それがなぜ売れるのか。次回、「本質」に迫る。

<参考URL>
こいくれない
http://www.nk-agri.co.jp/koikurenai/index.html
Kintone
https://kintone.cybozu.co.jp/jp/
おんどとり
https://www.tandd.co.jp/product/index.html
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WRITER LIST

  1. かくやさゆり
    サンマルツァーノトマトに出会い家庭菜園を始めた半農半ライター。農業、食、アウトドアを中心にライターとして活動中。主に固定種の野菜を育てています。
  2. 川島礼二郎
    川島礼二郎(かわしまれいじろう)。1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  3. 蒼井ネコ
    農学系の兼業ライター。某大学農学部、某農業レストラン、某飲料会社商品企画を経て、現在は某マルシェアプリでwebマガジン編集として働きながら、猫様のお世話をしている。
  4. 杉山直生
    すぎやまなおき。1988年生まれ。愛知県で有機農業を本業として営む。「伝えられる農家」を目指して執筆業を勉強中。目標は、ひとりでも多くの人に「畑にあそびに行く」という選択肢を持ってもらうこと。「とるたべる」という屋号で、日々畑と奮闘中。
  5. 柴田真希
    管理栄養士。㈱エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。27年間悩み続けた便秘を3日で治した雑穀や米食の素晴らしさを広めるべく、雑穀のブランド「美穀小町」を立ち上げる。現在はお料理コーナーの番組出演をはじめ、各種出版・WEB媒体にレシピ・コラムを掲載する他、食品メー カーや飲食店のメニュー開発やプロデュースなどを手がける。『私は「炭水化物」を食べてキレイにやせました。』(世界文化社)、『はじめての酵素玄米』(キラジェンヌ)など著書多数。